冷めない熱。

 


ある閑静な住宅街にある、
古き良き時代の
日本家屋を思わせるような
作りの部屋に
一目で上質なものだと判る
漆黒の着物を纏って
キセキの世代の主将、
赤司征十郎はいた。

書類を整理していたらしく
机には紙の山。
綺麗に積まれているのは
彼本来の性格から
くるものなのだろうことが、
同じく綺麗に整頓されている
室内から伺える。



ぴったりと窓を閉めてあった
そこに、冷たい風が入り込み、
机の上に綺麗に積まれていた
書類は無惨に床へと舞い落ちる。





「邪魔、しないでくれないかい?」



振り向かずに告げる赤司に、
窓からの侵入者は楽しげに
笑みを浮かべ、赤司へと歩み寄った。


「テツヤ、どうやって入って来た。
此処は僕の部屋だ。」



眉を寄せながら赤司は
漸く振り向き、相手を見据えた。



「いくら部活仲間でも、
僕に許可なく人を通す事は
有り得ないんだけど。」



赤司の怒気が含まれた視線にうろたえず、
ただ微笑を浮かべた少年は
口元を愉快そうな形に歪めて唇を開く



「許可なんて頂いてませんよ。
ただ僕は少しばかり他の人より
影が薄いので。」

「…知っているよ」

「おや、では、何故?」

「一応聞いておこうかと思ってね。
やはりテツヤは
少々常識が足りないようだ。」



鷹揚もなく、ただ艶やかな
微笑みとともに発せられた言の葉は、
だからこそ恐ろしく、
同時に人々を魅了する蠱惑の音色。







(僕も囚われた一人です。)






「御心配なく。
常識は人並みにはありますよ
赤司君の手を
煩わせることなんてしません。」



少年のその返答に赤司は
興味を失ったらしく、
少年の横を通り抜け
肌寒い風を送り続けていた
窓を閉めた。

次いで散らばってしまった
書類を一枚一枚拾う。

存外に散らばった数は多く、
綺麗に拾う事を諦めた赤司は
畳みに残った紙をぞんざいに
かき集めた。
不意に赤司の白い指先に走った小さな痛み。
痛みが走った右手の人差し指を見遣れば血がうっすらと滲んでいる。



「赤司君の血は、相変わらず綺麗なんですね。」



気配を消すのだけは
無駄に上手い男が、
気付かぬ間に赤司の真横にいた。

赤司はあからさまに
嫌そうな表情を浮かべ、
紙を拾う為についていた膝を
畳みから離そうとした…瞬間。



少年は傷のついた赤司の手を取り、
人差し指を己の咥内へと含んだ。

赤司は驚いたように目を見開き、
身体を強張らせる。

直ぐに赤司の人差し指は解放されたが、
赤司は動けないまま。



「甘かったです、ご馳走様。」



少年は穏やかに微笑み、
入って来た窓から去って行った。




赤司は少年が去って行った
窓を見詰めながら、
己の血のように
朱に染まった頬を隠すように
手で覆い、
閉じることを忘れられた窓から吹く
冷たい風で顔の熱が引くのを待った。








 








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