仄かなぬくもり。



 


痛い

いたい

イタイ






ズキンズキンと、頭が痛む。
まだ眠い脳は目を開く事を拒否し、耳を澄ませた。



遠くから雨の音が響く。



昨日から続いていた頭痛に合点がいき、今日は一日中部屋から動けない事実に溜息を吐く。

怪我の痛みには強い(というよりは慣れ、愚鈍になっている)が、この痛みには慣れるということがない。(幼い頃からの付き合いだというのに)


考えてもこの痛みが取り除かれるわけではないので、再びやってきた眠気に誘われるまま外界の音を全てシャットダウンして夢の世界へ堕ちる事にした。










カタ…、と部屋の襖が開いて閉まった音で意識が浮上する。

億劫ながらも目を開くと、心配そうに自分を覗き込む綺麗な水色。


(嗚呼、そういえば今日逢う約束をしていたな。)


「雨でしたので、お邪魔させて頂きました。
…、大丈夫ですか?」

「………。」


髪を優しく梳かれながら、頭痛のする頭に響かないように小さく呟かれる。
彼らしい配慮に少し口元が緩んだ。


「いつもの偏頭痛でしょう。薬は飲んだのですか?」

声を出すことはおろか、眼球を動かすことすらもつらかったから無言で目を閉じれば、彼は特有の笑みを浮かべ頬に唇を落としてきた。


「だと思ったので市販の薬買って来ました。飲めますか?無理なら口移しでも良いですよ」




くすくすと笑いながら
そんな事を嬉しそうに告げるな、と言いたかったけど、生憎声が出せない。

仕方がないから布団に乗せられた彼の袖口を軽く握る。


「…、え」


彼は驚いたように呟いてから、
僕の布団の中に潜り込んで
雨のせいでしっとりと
湿気を含んだままの服で
僕を包んだ。




(傍にいる人間の気配に安心するのは、何年ぶりだろう…。)


いつもの薄い彼の気配と
仄に香る彼の馨が、再び僕を夢の世界へ誘うのを抵抗せずに受け入れた。





(不思議だね、君が来た事で痛みが和らいだ気がするよ。)(それはきっと。気のせいなんかじゃないんだ…)








 








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