宵の光明が照らす。

吸血鬼パロ



 

夜、闇に染まった街。
街灯も疎らに、黒が支配する。
廃墟になって久しいビルの上に
異質な二つの影の存在。






影の一人、金髪の
モデルのような顔をした青年が、
同じく影の一人
海のような色の髪と水面の瞳を持つ
青年を呼び止め、路地を指差す。



「無用心ッスね…。
こんな時間に出歩くなんて。」



指差された方向を見て、
金髪の男の意図を察した
青年は愉し気に笑う。



「僕達には好都合じゃないですか。」

「じゃ、行きますか。黒子っち」

「今日の獲物は上等だと良いですね。」



この世に在らん限りの
絶望と恐怖を…。



金髪の男の言葉が
合図だったかのように、
二人は廃墟のビルから飛び降り
先程金髪の男が指差した路地へ
音もなく降り立つ。



降り立った処には、
闇から異彩を放つ程の燃えるような赤髪を持った、
華奢な(恐らく15、16歳位であろう。)
彼等にとっては餌である人間がいた。

しかし金髪の男と青年は
人間の顔を確認すると、
息を飲む。



その人間は、
人間とは思えない程
とても整った顔をしていたのだ。
(月並みな言葉で云えば、
言い表せない程の美人だった。)


何の因果か
金髪の男と
青年の餌の美味さは、
餌の顔で決まる。


だが二人は、
そんなことも忘れてしまったかのように、
その人間に魅入っていた。



「…掛かった」



その為、
その美しい人間の
甘い、少し高めのテノールで
呟かれた言葉を理解するのに、
彼等は
時間がかかってしまった。



「…黄瀬君っ!」



青年が先に我に返り
金髪の男の名を叫ぶ。

しかし
嘲笑うかのように
乾いた音が辺りに響いた。



美しい人間の手には、
紫煙を上げた銀に煌めく銃が
握られており、
照準の先には金髪の男が
脇腹を押さえて蹲っている。



「反射神経は良いんだ。
…流石、化け物?」



人間は美しい顔に
愉し気な笑みを浮かべ、
水面の瞳を持った青年に
視線を移す。





「ハンター、ですか…」



青年は餌として
標的を定めた人間を睨み付け
唸るように問う。



「別にそういう訳じゃない。
僕はただ、大好きな人達を
化け物なんかに取られるのが
嫌なだけさ。」



人間はそう言いながら
貼付けたような笑顔のまま
銃を青年に向けて放つ。



「顔に似合わず凶暴ですね。」



苦笑しつつ軽やかに
弾丸を避ける青年に
人間の苛立ちは募り、
銃そのものを青年へと
投げ付けた。



「残念ながら
褒めても何も出ないよ。」



人間は黒地のズボンのポケットから
仕込みナイフを取り出し、
青年に切り掛かる。



「わ…ッ。変わってますね。
貴方。
…お名前は?」



青年は至極愉しそうに
相手の攻撃を受け流しながら
問うが、人間は



「教える義理はないな。」



と、冷たくあしらう。



「可愛くないですね。
まぁ…なら身体に聞くまでです。」



そう云うと青年は
一瞬姿を消し
人間との間合いを一気に詰め、
腕と腰を掴んで
自身へと引き寄せた。



「黒子っち!!」



金髪の男の
制止する声が遠くで聴こえた。

しかしそれを無視して青年は、
いきなりなことで思考が付いてこず、
ほぼ無抵抗だった人間の
薄い唇を奪う。

驚きに目を見開く人間の唇に
鋭い犬歯を小さく立て、
ほんの少し流れ出た人間の
甘い極上の血を貪るように
舐めとる。

人間にとって、
これ程までに屈辱的なことは無かったが、
人間は身体の力が完全に抜けてしまい
録に抵抗も出来ないまま
既に自分自身の力で立っていることも叶わず
青年に抱き抱えられた形で立っているのが
やっとの状態で
まるでそこから
喰い尽くされるのではないかと
背筋に冷たいものが
流れるのを感じていた。


















永遠にも感じた、
長い口付けから解放されるのと
同時に
人間はナイフを振り上げたが、
それは命中することなく躱され
青年に更に抱き抱えられる
結果となった。

せめてもの抵抗として、
人間は青年を睨み付けるが、



「逆効果ですよ、赤司征十郎君。」



その言葉の通り、
先程までの口付けで
彼の頬は朱く上気して
切れ長の瞳には
生理的な涙が溜まっており、
どちらかと云えば
誘っているようにしか見えない。
だが人間は、
そんなことよりも
名前を知られていることに
驚きを隠しきれなかった。



「俺達は血から情報を得ることが
出来るんッス。」


そう言いながら
金髪の男は立ち上がり、
青年と人間に近付いてくる。



「黒子っちもやるときゃやるんッスね!
俺も気に入ってたのに、
先に契約するなんてズルイッスよ」

「すんません。」

「気にしなくて良いッスよ!
寧ろ俺は逆に嬉しいッス。」



男と青年、
二人だけで交わされる会話に
人間は眉を寄せる。



「“契約”って何だい?」



人間から発せられた言葉に、
今度は男と青年が目を見開いた。
少しの間をあけて
口を開いたのは、青年。



「…契約ってのは簡単に説明すると、アレです。
“貴方は僕のモノ”ってことになります。」

「は?!」

「契約すると、
僕は貴方が死なないと
他の人間の血を吸えない。
勿論貴方も僕に定期的に血を飲まれないと
吸血鬼の牙にある毒が
全身を回って死ぬ。
つまり運命共同体になった訳です。」



青年の説明に、
人間は言葉を失いつつも
瞳には殺意の色が滲む。



「なにそれ。僕、
了承した記憶ないんだけど。」

「貴方の意思なんて関係ないんです。
僕は君が欲しいから契約しただけで。
因みに一度交わされた契約は
解約出来ませんから。」



青年が嬉しそうに微笑んだのを
見た人間は言葉を詰まらせる。



「これから宜しくお願いします、
征君。」

「…殺すっ!!」



この日、真夜中にも関わらず
街から喧騒と怒号が
止むことはなかった。















闇より出た異質の影は、
一人の人間と出会い
ヒトへ近付き


美しい一人の人間は、
闇より出た異質の青年と出会い
一人と独りの違いを知る。

そんな二人を見守る
闇より出た金髪の男は、
数年後、
幸せそうな二人の顔を見て
姿を消した。



闇に染まる街。
黒に支配された世界は
美しく明ける。








 








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