交錯メランコリック。

征華(にょた)
多分社会人。





 

緑間から呼び出されて、
緑間のマンションへ向かうと
出迎えてくれた奴に
診察室兼客室へと通される。

通された客室には簡素なベッドしかなく
そのベッドの上には、点滴に繋がれた
征華が、力無く横たわっていた。



「火神。良く来てくれたのだよ。」


点滴の落ちる速度を
時計の秒針で確認してながら緑間が
呆れた様に笑い、肩を竦める。


「今朝、赤司から連絡が入ってな。
ただの風邪だったんだが
脱水と栄養失調が重なっていて
こっちへ連れてきたんだ。」

「…大丈夫なのか?」

「ああ、今は落ち着いてる。」

「そう、か。」


倒れてからじゃないと
連絡寄越さない癖は
直して欲しいのだよ、と
眉間に皺を寄せながら話す
緑間の声を何処か遠くに感じながら
普段の薄花桜色の顔色を失った
征華の顔を凝視する。
そういえば、かれこれ一ヶ月ぶりの
再会だった事に気が付く。

俺と征華は高校時代に知り合った。
その頃の俺たちは犬猿の仲で、
会ったら直ぐピリピリとした空気が流れるのが普通だった関係が崩れたのは
高校を卒業する前日の日。

俺は
いつの間にか征華を好きになっていた。
高校を卒業すれば接点も
無くなってしまう事に焦って
玉砕覚悟で告白したら、
征華が応えてくれて
かれこれ6.7年の付き合いとなる。
…まあ、喧嘩をしなくなったわけではないけども。

彼氏彼女の関係を
確かにあの日
新たに紡ぎ出した筈なのだ。

でも考えてみたら
どうなのだろうか。


倒れても。
辛くても。
苦しくても。

征華は何も言わない。

寂しくても。
悲しくても。
傷ついても。

俺は本当に
こいつの彼氏と言って良いんだろうか。

征華が最後に頼るのは
いつだって緑間だ。

こいつらが中学からの付き合いで
主将とマネージャーの関係で
信頼しあってるのは知ってる。
(本人達は否定するけど)
医者だから、ってのもあるだろう。
でも、
それでも。


頼って欲しい。
何でも言って欲しい。
一番に気が付きたい。

少しで良いから
ほんの小さなシグナルを出してくれれば。

俺は俺の出来ることなら
何だってしてやるのに。




噛み締めた奥歯が、
ギシリと嫌な音を立てる。

征華を映す視界が歪んだ。

ああ、情けねえ。



「俺はこれから仕事なのだよ。
だから征華の傍に居てやってくれ。
一人にすると点滴抜いて出て行きかねない。」


帰るなら鍵はポストに入れて行け、と
言い残して緑間は家を後にした。

深く眠る征華の枕元に
置いてあった椅子に腰掛けて
改めて征華の顔を覗き込むと
少しやつれている。

取り敢えず俺が今こいつにしてやれる事は
説教と美味しいお粥を作って
食わしてやる事ぐらいだろうか。









 
 



「ん… あ、れ…?」


目が覚めたら、見慣れない天井が
眼前に広がっていた。
ただ、見慣れないけれど
知らない訳ではない
その天井に、
己の失態を悟る。

ああ、そうか。
真太郎に電話した後
倒れたんだったか。

此処最近忙しかったし
碌に睡眠も食事も
摂ってなかったから
仕方ないのかも知れないが
キセキの世代を
扱いていたマネージャーである僕が
単なる風邪を抉らせるなんて、ね。

まあ、これには理由がある。

幾ら仕事に追われてたと言えど
一ヶ月弱も火神に
会えてなかったからだ。

火神と会えないと
食事だって味気ないし
眠れなくなる。

恥ずかしくて、
本人には言ってないけど。
重いって思われて
嫌われたくないし。

にしても、
また緑間に笑われるのか…。
気が重くなってきた。

そういえば緑間は何処だろう。
大抵僕が起きるまでは
いつも傍に居てくれて
開口一番で嫌味を吐くのに
姿が無い。

まだ有るであろう高熱のせいで
歪む視界で部屋を見渡せば
見慣れた赤髪が
其処に居た。



「か、 が…」

「起きたか?」


渇いて引き攣る喉で
名前を呼べば
思ったよりも小さく
掠れてか細い声になってしまったが
火神は気付いてくれたようで
顔を覗き込んでくる。

髪も化粧もボロボロなのだから
余り見ないで欲しい、なんて
場違いなことを思う。
でも女心的には正解なんだろう。



「真太郎は…?」



気恥ずかしくて、
堪えられなくて。
真太郎は何処かと問えば
途端に火神の
眉間に皺が寄り、
機嫌が急降下したのが分かる。


…何か気に障る事したか?


会えなかった一ヶ月間は
勿論浮気なんてしていないし、
会えなくなる前も
喧嘩はしなかった筈なんだけど…。

回らない頭をフル回転させてみても
理由が分からない。

まあ火神だから
どうせ理屈も通らないような
理由なのだろうと
当たりを付けて
火神を見上げる。



「…かが、み…?」





吃驚した。

だって

あの火神が

泣いていたのだ。





「ど、した?」



掠れて上手く出ない声が忌ま忌ましい。
重い身体を無理矢理起こして
火神の濡れた両頬に触れる。

火神は触れた僕の手を
包み込むように握り
真っ直ぐに見詰めてきた。



「…かが、」

「征華。」



思わず息を飲んでしまったのを
誤魔化すように名前を呼ぼうとしたら
先に名前を呼ばれてしまい
身動きが取れなくなる。



「か、」

「なあ、征華。
俺はそんなに頼りねえか…。」



そう告げた火神の瞳は
寂しげに揺れていた。
どうして、と
口を開こうとしたら
火神の
それに塞がれる。



「緑間じゃなくて俺を頼れよ。」


真摯に見詰めてくる
火神が歪む。

熱だけのせいじゃない
涙が視界を覆う。



「かが、み…っ」



火神に掴まれた手が
緩んで、僕はその手を
火神の背中に回し
縋り付くように掻き抱く。

そして
火神と付き合ってから
初めて

声を出して泣いた。


















それから、
折角点滴したのに
また脱水するんじゃないかって程
散々泣いて。

涙や鼻水やらで
ぐっちゃぐちゃな僕の顔に
火神が宥めるように
キスをくれた。









(手前、ほんと甘え下手だな…。)(うっさい!)








 








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