2「前に話したの、覚えてる?」
コトリ…とテーブルに触れた湯のみが音を立てる。
「あぁ。」
「じゃあ、いきなり本題ね。
私は…お父さんとお母さんの最後を、あの時、マクロス・クォーターのブリッジで見届けた」
アルトが息をのんだのがわかった。
私、声震えてないよね、大丈夫だよね。
「…え…そんな事…」
「言ってなかったよ…ううん、言えなかった。心のどこかで、なかったことにしてたのかもしれない…ね、私。」
「…っ…続けてくれ…」
「…うん。オズマはお父さんの戦友兼親友で、SMSの皆にはずっと小さいころからお世話になってた。
だから、もし両親に何かあれば、SMSで対応してくれる話になってたのね。
SMSは表向きは「民間軍事プロバイダー」。
アルトはもう十分わかってると思うけど、星間運送企業は表向き。政府からの要請で、新型兵器の性能評価試験から偵察、護衛、なんでも請け負う企業。
今私は、VF-25Kのパイロットしてる。
この機体は、お母さんが生前乗っていた軍の機体…VB-171の後継機。
っていっても、性能はほとんど変わらなくて…。
この機体に乗る代わり、リアルタイムだったり統計だったり織り交ぜながら、ほぼすべてのデータを軍に送ってる。
艦長の計らいもあって、皆と同じVF-25Kの名前を貰えたんだよ。
バルキリーの事もあって、月に数回大統領府に出向いていろいろやってる。
で!美星の航空科で勉強も両立!
って、アルトもこれからそうなるんだけどね!
結構厳しいよ〜。ふらふらになる事のが多い感じ。」
「…だろうな…。」
「アルトはあの鬼教官ミシェルにしごかれるんだから!覚悟しなさい!」
「…はぁ」
「んでまぁ両親の影響もあって、バルキリーの整備・操縦・テストフライト・オペレーターとかもしてるから、パイロット兼補填員ってところかなぁ…。」
「補填員…って本当になんでもやってるんだな…。」
「うん!全部やりたくてやってるんだけど…へへ。
あと、ソラネについては…一言で言うと…趣味!」
「…趣味って…」
「だってそうでしょ?歌手も好きでやってるの。歌いたい気持ちがデビューさせたんだよねぇ。
あ!ちなみにちゃんと許可は取ってるよ。メディア顔出しNGだったんだけど、あのライヴ以降はショートヘアーのウィッグ着用で顔出しもしてる。」
まっさか顔出しするなんてねぇー。
でもね、髪型と雰囲気だけでまだばれてないんだよーえっへん!
なんて、冗談も織り交ぜながら。
「そう…か…今、幸せか?」
「もちろん!…アルトは?」
「俺は…」
―ナマエが居なくなって、俺は半ばヤケになり歌舞伎に打ち込んだ。
―演じることが全てだった。
―俺が生きてる証明…存在意義だった。
―再会した時、会えなかった時間が倍以上長く感じた。
―久しぶりのナマエは、ひどく遠くに感じた。
―でも
―でもナマエは変わってなかった。
―俺は
―俺は…
「―…幸せに決まってるだろ。」
そっとナマエを抱き寄せる。
無理やり抱きしめたから、相当無理な体制なナマエ。
俺の胸のあたりで、小さな悲鳴が上がる。
「きゃ…どしたの、アルト…?」
「ナマエ…」
「…ん?」
「…ナマエ…」
「…なぁに?」
背中と後頭部に回されたアルトの手。
大きな背中。
大きなてのひら。
―みんな姫って言うけど…アルトは大きなおとこのこだ…。
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