マクロス長編 | ナノ


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「前に話したの、覚えてる?」



コトリ…とテーブルに触れた湯のみが音を立てる。




「あぁ。」




「じゃあ、いきなり本題ね。
私は…お父さんとお母さんの最後を、あの時、マクロス・クォーターのブリッジで見届けた」



アルトが息をのんだのがわかった。

私、声震えてないよね、大丈夫だよね。



「…え…そんな事…」


「言ってなかったよ…ううん、言えなかった。心のどこかで、なかったことにしてたのかもしれない…ね、私。」


「…っ…続けてくれ…」


「…うん。オズマはお父さんの戦友兼親友で、SMSの皆にはずっと小さいころからお世話になってた。
だから、もし両親に何かあれば、SMSで対応してくれる話になってたのね。

SMSは表向きは「民間軍事プロバイダー」。
アルトはもう十分わかってると思うけど、星間運送企業は表向き。政府からの要請で、新型兵器の性能評価試験から偵察、護衛、なんでも請け負う企業。

今私は、VF-25Kのパイロットしてる。
この機体は、お母さんが生前乗っていた軍の機体…VB-171の後継機。
っていっても、性能はほとんど変わらなくて…。
この機体に乗る代わり、リアルタイムだったり統計だったり織り交ぜながら、ほぼすべてのデータを軍に送ってる。
艦長の計らいもあって、皆と同じVF-25Kの名前を貰えたんだよ。

バルキリーの事もあって、月に数回大統領府に出向いていろいろやってる。

で!美星の航空科で勉強も両立!
って、アルトもこれからそうなるんだけどね!
結構厳しいよ〜。ふらふらになる事のが多い感じ。」

「…だろうな…。」

「アルトはあの鬼教官ミシェルにしごかれるんだから!覚悟しなさい!」


「…はぁ」


「んでまぁ両親の影響もあって、バルキリーの整備・操縦・テストフライト・オペレーターとかもしてるから、パイロット兼補填員ってところかなぁ…。」


「補填員…って本当になんでもやってるんだな…。」


「うん!全部やりたくてやってるんだけど…へへ。
あと、ソラネについては…一言で言うと…趣味!」


「…趣味って…」


「だってそうでしょ?歌手も好きでやってるの。歌いたい気持ちがデビューさせたんだよねぇ。
あ!ちなみにちゃんと許可は取ってるよ。メディア顔出しNGだったんだけど、あのライヴ以降はショートヘアーのウィッグ着用で顔出しもしてる。」



まっさか顔出しするなんてねぇー。
でもね、髪型と雰囲気だけでまだばれてないんだよーえっへん!



なんて、冗談も織り交ぜながら。



「そう…か…今、幸せか?」

「もちろん!…アルトは?」


「俺は…」






―ナマエが居なくなって、俺は半ばヤケになり歌舞伎に打ち込んだ。

―演じることが全てだった。

―俺が生きてる証明…存在意義だった。

―再会した時、会えなかった時間が倍以上長く感じた。

―久しぶりのナマエは、ひどく遠くに感じた。

―でも

―でもナマエは変わってなかった。

―俺は

―俺は…








「―…幸せに決まってるだろ。」








そっとナマエを抱き寄せる。

無理やり抱きしめたから、相当無理な体制なナマエ。

俺の胸のあたりで、小さな悲鳴が上がる。


「きゃ…どしたの、アルト…?」

「ナマエ…」

「…ん?」

「…ナマエ…」

「…なぁに?」



背中と後頭部に回されたアルトの手。

大きな背中。

大きなてのひら。



―みんな姫って言うけど…アルトは大きなおとこのこだ…。


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