つぎはぎだらけの往復切符



「苗字、ホッチキス見つかったか〜?」
「あったよ。あと何かあったっけ」
「ん。ホッチキスが最後だな、うし、戻るか!」

商品棚の向こうにいる夜久に声をかけられ、私は手に取っていたものを元に戻し、立ち上がった。別にこの機会に買っておかなきゃいけない訳ではないので、それに、買ったところで渡せなきゃ意味がないのだ……。

「おーい、何してるんだよ。行くぞ?」
「ごめん、すぐ行く」

振り返りざま首を傾げる夜久の手にはそれなりの商品が入ったカゴがあり、否応がなしにもうすぐ大事な日が近づいてきていることを見せつけられる。
今日、同じクラスの夜久と制服のまま学校近くのショッピングモールへ訪れたのは、三日後に行われる学園祭の準備のためだ。私たちのクラスは多数の票によってお化け屋敷をすることになったのだが、学校側で支給されるホッチキスや様々なものが不足してしまい、こうして手の空いている人たちが経費として先生からお金をもらい、備品を補充しに来たわけである。

「……夜久、ひとつだけ個人的な買い物していい?」
「うん?別にいいけど、何買うんだ」
「レターセット、の、ミニサイズ」

しかし、どうにも先程見かけた淡い手紙セットが諦めきれず、一歩踏み出した場所から下がり、棚から商品を取り出して夜久に見せた。

「へえ〜……セットにミニサイズなんてあったんだな……」
「最近は携帯とかで済ます人も多いから、需要が少なくなってきてるけど、直筆で何かを伝えるって素敵だから私は割と重宝してる」
「苗字も誰かに送るんだ?」
「まあね」

あまり商品を吟味する時間はかけられないのだが、一生に一度にあるかないかの一大プロジェクトを始動させているこちらとしては妥協はしたくない。幸いなことに夜久も思い思いに見ていっているため、私も自由に見ることができた。
……まさか自分に送られるものだとは思っていない夜久は、いつも通りというかなんというか……。
三日後が学園祭。そしてその一週間後に夜久の所属する男子バレーボール部の大会があるのだ。大会であると同時に、私の勝負の日でもあるが。

「……うん、これでいっか」

安直かとツッコミ入れられそうであるが、白を基調とした髪に薄く赤と黒の猫が薄くプリントされているセットを片手にレジへと向かう。動いたのが見えたのか後ろからついてくる夜久の気配を感じつつ、表情は冷静に、内心はバックバク脈打っているこの違いこれ如何に。

「一度にまとめようぜ。あとで精算な」
「おっけー。じゃあ先にレジ袋に入れとくわ」
「さんきゅー」

商品の入ったカゴを近くの机に置き、重いものから順に店側から貰った袋へ詰めていく。もちろん、個人用で購入したレターセットは自分の鞄に入れる。全部を入れ終えた頃には夜久も会計を済まし、カゴを片付けようと手を伸ばした途端、すっとなんてことないようにやってしまうあたり、本当にずるいと思う。

「なあ」
「ん?」
「こんなこと聞くの失礼かもしれないんだけどさ、誰に送るんだ?」
「なにが?」
「だからー……手紙」
「夜久そんなの気になるんだ」
「ばっ……悪いかよ」
「ううん。ちょっと意外で驚いただけ」

店を出ると夕日が眩しく、少し寂しげに映る。

「……まだ、決めてないかな」
「決めてない?」
「うん。セットを買ったのはいいんだけど、誰に書くのか、そもそも使うかどうかさえも決めてない」

嘘は言っていない。昨日つくりあげたお守りには既に目標達成・成功の意味を持つクリソプレーズというパワーストーンが入っているし、手紙を書こうかなと思ったのはついさっきだ。だから、嘘は言っていない。

「なんだよそれ。はー……心配して損した」
「ははは、心配ありがとう。そろそろ戻らないと黒尾が変な詮索するよ」
「げ。そりゃ面倒だ」

心底不愉快だという顔をして、先に歩き出した夜久の背中を見つめる。
身長は確か165cmだって言ってた。同じクラスメイトの黒尾と比べると小さいと感じる身長だけど、それより小さい私からすると逞しい、男の子の背中だ。本人は低身長を気にしているが、それ以上に大きくて頼りになる、かっこいい性格に心惹かれたのはいつだったか。
……決めた。やっぱり手紙を書こう。手作りのお守りだから中身を見ちゃいけないという決まり事はないし、せっかくだから、ずーっと燻っているこの想いをぶつけてみようか。そうしたら、律儀な夜久のことだからきっと返事をかえしてくれるだろう。さしずめ、お守りの手紙が往復切符なのだ。

「ふ、ふふふ」
「突然笑いだしてどうしたんだよ、ちょっとこえーわ」
「なーんでもない。ふふ……」

少しばかり引いた表情を浮かべてるが、どうってことはない。私はもう決めたんだ。女に二言はないの。
ああそうだ、お守りを渡したら、夜久はどういう表情を浮かべるのだろうか。
それと───お守りの中に入っている手紙には、いつ気づくのだろうか、楽しみだ。



190327
いつも仲良くして頂いているリサコさんへのお誕生日プレゼントです。





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