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初めて名無しに会ったのは、とある山でだった。

戦で腕を怪我し、辛勝したがその後、休めと言われた。
治療をしたものの調子はあまり良くなく、それを心配しての事だろう。
兄者―殿には心配をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「気晴らしに酒でもどうだい、兄者」


張飛にそう言われたが、断った。
これ以上、体を壊してしまっては戦力外になってしまう。
しかし、それと同時にイライラしていることもあった。

―どうも気分が優れない。


「少し出掛けてくる」


それだけを伝えると、すぐに馬に跨がり、駆け出す。
別に、行き先を決めていた訳ではなかった。
どこでもいい、とにかく一人になれる場所が欲しかった。
駆けているうちに、山の中に入ったことに気が付いた。
関羽は馬を下りると、馬を連れて山を登り始めた。







景色が非常によく、清々しい気持ちになった。
馬を近くにつないで置き、丁度良い大きさの岩があったので腰を下ろした。
このまま少し、何処か横になってしまおうか。
欠伸を噛み殺しながらそう感じた時、もうし、と声をかけられた。
振り向いてみればそこに、竹籠を背負った女性が一人いた。


「立派な身形からして、そちらは何処かの武将さんですか」

「はい。関羽雲長と言います」


―貴女様はここで何をしていらっしゃるので。

そう聞くと、隣にやって来て籠の中身を見せてきた。
籠の中には、色々な草や木の根が入っている。
それらは薬草で、関羽は少しばかり知っていたが、知らない物まで入っていた。


「そなたは、薬師か」

「ええ。この山に住み、薬師をしている名無しと申します」

「ほう、それはまた難儀な事を…」

「…関羽殿、どうやら体調が優れぬご様子で」


それを言われて、驚いてしまった。
どうしてそのことを彼女が知っているのだろうか。

そう思っていると、名無しはクスッと笑って、


「…前にもそういう方がいらしたので」


我が庵に来て下さい、と彼女に言われた。
つないでいた馬を連れ、関羽は彼女と共に歩き出した。


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