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時々、司馬師の事が分からなくなる。
いつもはクールな性格で、極たまに笑うと少し怖いという印象が強い。
お父さんがあんな感じだから、そこがよく似てしまったのだろう。
しかし、そんな彼にも妙に可愛い一面がある。
「昭、貴様また私の肉まんを!」
「あ、兄上! 違うんだって、これは…」
「何が違うというのだ!?」
彼、極度の肉まん好きなのである。
それはもう、笑ってしまうほどのもの。
知り合いの諸葛誕さんも、間違えて彼の肉まんを食べてしまい、酷く怒られた事があると話していたっけ。
しかしまあ、何と子供みたいな人なんだ。
たかが、肉まん。
しかし、されど肉まんって所なのか。
先ほどからずっと『肉まんを食べられたから』を理由に怒る司馬師を、溜め息をつきながら名無しは見つめていた。
「もう、許してあげたらどうです?」
―弟さんが可哀想でしょう?
あまりにも五月蝿いので、仲裁する。
助け舟が来たので内心ホッとした表情を司馬昭は見せたが、司馬師はまだ怒っているようだ。
キッとこちらを見ながら、
「名無し、止めるな。これは私の問題だ」
「たかが肉まんでしょう?」
「最後の1個だったんだぞ!」
どうやら、何個入りの奴の最後を食べられてしまったとの事らしい。
もう一度買ってくればいいと言えば、なかなか出回らないものなのだとか。
それを聞いて、またもや名無しは溜め息をついた。
「仕方が無いですねえ」
名無しは呟き、買い物に行く準備をする。
二人は、頭にはてなマークを浮かばせこちらを見つめている。
それに気が付き、名無しは、
「あ、そうだ。昭君、一緒に来てよ」
荷物持ち隊長に任命してあげるから―。
その言葉に彼は苦笑したが、頷いた。
司馬師はまだ分からないとでも言うような顔をしている。
「子元さんも行きます?」
「…いや、遠慮する」
彼はそう言うと、どこかに姿を消した。
名無しは「むう」と口を尖らせたが、司馬昭が「行きましょうか」と促してきた。
「そうね、行きましょうか」
「俺が運転しますよ」
車のキーを片手に、司馬昭はニッと笑う。
『めんどくせ』が口癖の彼だが、こういう時は結構頼りになる男である。
車に乗り込み、向かうのは地元のスーパー。
安くていいものが買えるので、いつもそこはお祭りのように賑わっている。
運よく空いていた所に車を停めると、買い物かごを持ってもらい、いざ出陣!
豚ひき肉としいたけ、ネギ、たけのこをかごの中に入れていく。
「司馬家に、薄力粉とかベーキングパウダーってある?」
「俺、台所にあんまし入らないんで分からないやー…あはは」
「司馬家の台所は、母の城かー」
仕方がないので、小麦粉やら肉まんの皮の材料もかごに入れると、レジに並んだ。
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