むしゃむしゃ、むしゃむしゃと、そんな効果音が似合う程ひたすら隣でお菓子を食べている、高槻悟。
そしてその隣の人物、三郷日和。

この二人は恋人同士であった。


ぴよぴよ


「…なぁ、悟」

悟の綺麗な横顔を見つめながら声をかける。
日和も別段不細工なわけではない。
しかし、悟は美形なのだ。
イケメンよりも美形と形容した方がしっくりくる。
悟の濡れたような艶やかで少し長い黒髪は緩く結われ、綺麗な真っ白なうなじが覗く。
顔も見る人すべてが溜め息をつくほど整っている。
その整い過ぎた美貌は彼の人見知りする性格と相まって彼から人を遠ざけるものであった。

一方の日和は人工的な短い金髪で、耳にはピアスがついている。
愛嬌のある笑顔でクラスの人気者であり、いつも周りには人が集う。
そんな人物であった。

神が手間暇かけて丁寧に造形したのであろう学園で"氷の王子様"と持て囃される彼は今は見る影もなく、ボリボリと何かを貪っていた。

先程の呼び掛けに反応しない彼にもう一度声をかける。

「さとる」
「…なに」

ジトッと見つめる瞳が邪魔をするなと睨んでくる。
そんな鋭い視線に身体を震わせる日和はだだのドMであった。

悶えながら、上体を悟の方に倒す。
ぷるぷる震えている彼を見て悟は一言、

「キモい」

とだけ呟き、頭に握り締めた拳を容赦なく振り落とす。

「いったぁ!」
「黙れうるさいこのドM」
「もっと罵っていいよ!」
「しね」

心底嫌そうに呟く悟。
"氷の王子様"と呼ばれるに相応しいほど冷たい目線で日和を貫く。
しかし悟の目線とは裏腹に、日和の身体はどんどん熱をあげていく。

「さとる!」
「次キモいこと言ったら別れる」
「……」

途端に黙り込んだ日和に悟は顔をふいと背けまだ何かを咀嚼しだした。

「…で、なに?」

依然口の中にものが入った状態で喋り続けるので多少聞き取り難いが、そこは忠犬日和。
ちゃんと聞き取った上にそっけない態度をとりつつも自分に声をかけてくれる優しさに満面の笑みを浮かべながら悟にまとわりつく。

「さとる!何食べてんの?」
「…たまごボーロ」

幼児がよく食べる口の中にいれるとすぐ溶けてしまうあの甘いお菓子だ。

「おいしい?」
「うん、いる?」

そう悟に言われて日和は何か思い付いたのか、にんまりと笑みを浮かべる。

「いる!」

そう宣言をし、悟の後頭部に手を当て唇を合わせた。
驚いた悟は罵声を吐こうとしたが口内にはどろどろに溶けてもう完全に液体になったたまごボーロが詰まっているしなにより日和の唇と合わさっているのだ。
日和は目敏く少し緩んだ隙に舌を悟の口内に浸入させた。
舌先が温く甘い液体に包まれる。
悟の鼻にかかった声を聞きながら日和の愚息は熱くなる。
調子付いて更に深くキスをしようとしたら悟に舌を噛まれた。
反射的に口を離す。
二人の口回りはたまごボーロとお互いの唾液で濡れ、悟のそれは下に居たこともあり日和よりもべたべただ。それを拭う悟の顔はとても赤い。

「このバカぴよ!普通に食え!」

日和に怒鳴り付ける。
ぴよ、とは日和の愛称である、一応。
ひよりの響きがひよこみたいだといってひよこからぴよと呼ばれたりする。
あと髪の色が金髪なのもひよこらしいなど言われてもいる。
ぴよとよばれるのは大抵悟を怒らせた時だが。
怒りに顔を真っ赤にしてふるふると震えている悟に更なる爆弾を日和は落とす。

「ねぇ、さとる。俺勃っちゃったんだけど」

踏んで?そう言って首を傾げた日和に、自分は何故コイツと付き合ったのか、過去の自分に一時間程説教したい気分だった。


END
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