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いつもの様に溜まり場となっているバーへ行く。
扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、俺様な恋人が浮気している姿だった。

奥のソファにふんぞり返るように座っているのが俺の恋人。
ソファはワガママな奴がマスターに無理言って置いて貰ったやつでバーの雰囲気には少し馴染んでない。
そして奴の膝の上には跨がるようにボンキュッボンのお姉さんが乗っている。
しかもかなりの美人だ。
身長は結構高めだけど、まごうことなき美女に分類されるだろう。
美女はツカツカと近付いてくる俺に何か言いた気に口を開こうとしたが、それよりも早く叫んだ。

「このバカ野郎!どんだけ性格悪くても浮気だけはしねぇって思ってたのに!」

それだけ叫ぶとポカンとした間抜け面を晒すバカに背を向け扉へと急いだ。


乱暴に閉めてしまった扉に罪悪感を覚えながらも苛立ちを露に歩きだした。
暫く歩いて落ち着いてくると、いつもは気にならない不躾な視線が気になってきた。
あのバカ―――先程怒鳴り付けて出てきた恋人、恭一郎―――と居る時は気になることはないのに。
自意識過剰かも知れない。
それでも周りから上から下まで舐め回すような視線を感じるのは事実だ。
気が立っている今は必要以上にそれが腹立たしく、近くにいた三人組の一人と目が合ったため絡んでやった。

「あ?何見てんだよ?」

ツカツカと三人組の方に近付くとその内の一人の胸ぐらを掴んでやった。
ニヤニヤと下卑た笑い顔がムカついて、胸ぐらを掴んでいた指をきつく締めた。

「お前、ここら辺シメてる恭一郎のオンナなんだろ?」

胸ぐらを掴んでいた男が下世話な話題を吹っ掛けてきた。
その言い回しが非常に不快で一瞬目の前が真っ赤に染まったような気がした。

「っ、ふざけんなよッ!」

衝動のまま握った拳を男の頬目掛けて突き出した。凶暴な衝動に任せ、他の男も殴り飛ばした。すると男達は慌てて逃げ出した。
不様に走り去る後ろ姿を見ていたら、興醒めしてきて追い掛けはしなかった。少し痛む拳を胸に抱えながら溜め息を付く。これからどこにいこうか。
大人しく家に帰るつもりもないし、どこかでやけ酒でもしようという気分にもなれない。
もやもやした気分を抱えながら後ろを振り向くと、こちらに来ようとして気まずげに佇んでいるバカの姿があった。
目が合うとふい、と逸らされてしまいなんだかそれに無性に腹が立って奴とは反対側に踵を返した。

「叶多!」

後ろから名前を呼ばれたが、振り向く気にもならない。そのまま歩いていると前から先程まで恭一郎と一緒にいた女性の姿が見えた。そして彼女の目の前を通るのと同時に後方から腕を掴まれる。

「待てよ、叶多!」

腕を掴まれて居ては逃げることも出来ないので渋々恭一郎に向き合う。出来る限りの低い声を絞り出した。

「…何か用?」
「叶多!俺の話を聞けって」

その言葉に眉間に皺が寄る。聞く話などない。元より恭一郎の言い訳を聞くつもりなど微塵もない。
衝動のままに腕を振り払おうとすると第三者の介入があった。

「ちょっとキョウ。この子嫌がってるじゃない。やめてあげなさいよ」

浮気相手だ。浮気相手の癖に堂々としすぎだろ。本命は俺だぞ。気圧されて心の中でそう小さく主張してみる。
近くで見るとやっぱり美人だ。これはもうむしろ俺が勝手に本命だと思っていただけで本当はこの浮気相手が本命なんじゃないのか、笑えない。

そう考えている内にいつの間にか恭一郎に掴まれていた腕は自由になり逆の腕をその浮気相手に掴まれて車に連れ込まれていた。
人間考えることをやめてもなんか適当に行動するもんだな。
そんなことを投げ遣りに考えつつ抵抗するのも面倒でそのままそれに従った。

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