旧拍手お礼文

「はじめー!トリック・オア・トリートー!」

一に抱き付きながら、綾十はハロウィンお決まりの台詞を言う。
勉強が趣味で真面目な一がハロウィンを気にするわけないし、お菓子を持ち歩いたりもしてないと踏んでの行動だ。
しかしその予想は覆されることになる。

「ほら」

一から綾十に差し出されたのは見るからに手作りと思われるお菓子。

「え、ありがとう…えっ?」

意外にも一からお菓子(しかも手作り)が貰えて嬉しいのと、お菓子を貰えなかったという免罪符のもと一にあんなことやこんなことをするつもりだった希望が消え去っていき、綾十は混乱していた。

「何?嬉しくないの?」

こてんと首を傾げる一。
綾十がこの仕草に弱いのは把握済みだ。

「う、うれしいっ!うれしいよ!ありがとう!」

可愛い一に悩殺され、本来の目的を忘れ果て顔面一杯に喜色を浮かべる。

そこに第三者の介入が入る。

「そうか!それはよかった!」
「なっ、お前は…!」

颯爽と現れたのはイケメン料理部部長兼一の幼馴染み、高須梓。
一は梓の姿を確認すると、綾十の抱擁(と言う名の拘束)を抜け出して、梓のもとに向かう。

「あず兄ぃ」
「一、言われた通りちゃんと俺が焼いた菓子持ってきたんだな」

目を細めながら一を撫でる梓はさながら兄のようだ。
小さい頃から"あず兄ぃ"と呼んでいたので今もそう呼んでいる。

「俺、子供じゃないんだけど」
「わりぃわりぃ、つい、な」

そう言われて微笑まれるとなまじ美形なだけに照れる。
一は、はにかみながら素っ気なく
「別にいいけど」
とだけ、言った。


「も、もしかして…」
震える唇で綾十は言葉を紡ぐ。

「これ、作ったの高須先輩ですか?」
「そうだけど」

笑う梓とは対照的に絶望のどん底のような顔をする綾十。
梓の顔には"お前の考えなんてお見通しなんだよ"と書かれていた。

梓のそばにいた一が綾十に歩み寄る。

そっか…そうだよな、一がハロウィンとか気にするわけないもんな…ハハ、と多少壊れ気味に呟いた綾十を気にもせずに
「あず兄ぃの作ったお菓子美味しいし、俺が綾十にあげたことには代わりないんだからいいだろ?」
俺が、綾十に、
そこを強調しながら言うと、単純な綾十はぱぁっと表情を明るくさせ、いただきます!と言って食べだした。

「はじめ!美味しいよ!」
「そうか、それはよかった」

綾十がむしゃむしゃと咀嚼している横で梓が一に感心したように言う。

「大分、扱いなれてるんだな。…よくアイツのことわかってんじゃん」

ニヤリと意地悪く笑いながら梓が言った。

「アイツがバカなだけです」

そう言い返した一の耳は赤かった。








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