そのまま噛み付くようにキスをされ、わけのわからぬままに押し倒されていた。
口内を好き勝手に蹂躙され酸欠状態となった頭は抵抗するように指示も出さず、無抵抗に身体を投げ出していた。

「抵抗しねぇの」

何に、とは聞かなかった。
そのあとで、何を今さら―――そんな思いがよぎった。
抵抗して現状がよくなるならばしている。
よくならないから抵抗しないのだ。
当たり前のことをいう男に静かに怒りが沸き上がる。
現状への不安と恐怖を塗り消すように怒っていることを気付いてはいない。

「もしかして、今からされることわかってねぇわけ?」

この押し倒された状況でわからないというのはカマトトぶった女かよっぽどのバカだけだ。
今からこの目の前の男に蹂躙されようとしている事実は恐怖となり男より幾らか細く、骨ばって華奢な身体を震わせた。

そのまま着替えた部屋着を脱がされ身体中に浮かんだ痣に上書きするように噛まれては歯形を付けられ、吸い付かれては鬱血を残された。
身体中を撫でられ、噛まれ、吸われ、流されるがままに拓かれた身体を貫かれた。
そのことにはあまり衝撃を受けなかった。
しかし、ひたすら獰猛な色を宿す瞳に見つめられる度に小さく身体を震わせた。

事情の後、雅は別人のように俺の体調を気にかけ、ひどく優しげに微笑み額に唇をひとつ落とすと「おやすみ」と呟いて俺を抱き締めて眠りについた。
身体にまとわりつく他人の体温を意識しながら、何故こんな状態になっているのか疑問は尽きることは無かったが激しい運動の後で考えることさえも酷く億劫に感じられて自ら瞳を閉じ意識を手放した。

丁寧に解されたそこが酷く痛むこともなく、次の日も普通に登校できた。
そのことにほっとしつつ、何ら変わらない日常を思い浮かべた。

その日は雅が生徒会室に呼ばれ、俺もそれに連れてこられていた。
それは崩壊の合図となった。


「あれ?なんかその地味男首にキスマーク付いてね?」

いかにも態度も頭も軽そうな会計が余計なことを呟いた。
そのせいで生徒会メンバー全員から一身に視線を受け、気まずくなって雅の横で縮こまる。

「キスマークってこんなやつに誰が付けるんだよ」

心底馬鹿にしたように鼻を鳴らしながら唯我独尊何様俺様な会長は嘲る。

「どこの誰とも知れない馬の骨とセックスするなど汚らわしい」

やはり雅には相応しくない男だ。
そう侮蔑の表情で腹黒副会長は吐き捨てる。
性別が男な時点で俺はともかくお前も相応しくないことに気付いてないのだろうか、酷く滑稽で愉快だったが笑う気にはなれなかった。

「そのキスマーク、付けたの俺だから」

雅が口を開いた。

は?
そう呟いたのは一体誰だったのか。
しかしながら生徒会メンバーの内心は手に取るように分かり共通することは皆一様に驚愕の表情を浮かべていることだ。
当たり前だ。
俺だってビックリしたさ。
今まで恋人などとぬかしつつ無関心を貫いてきた男がいきなり俺を暴いたのだ。

「どういうことですか、雅」

副会長が必死の形相でそれだけ捻り出した。
可哀想に、震える唇が真っ青なことから彼の受けた衝撃がかなり大きいものだとはかり知れる。

言っても聞かない名前呼びの為か僅かに顔をしかめながらも雅は言葉を紡ぐ。

「だから、そのままの意味。俺は真と昨日セックスしたわけ」

皆、一瞬"真"という固有名詞に首を傾げたが伊達に進学校の生徒ではない、文脈上から俺のことだと素早く読み取り視線はこちらに向けられた。

その時の彼らの―――生徒会メンバーの表情を、俺は生涯忘れられはしないだろう。
彼らは視線だけで俺を殺せるんじゃないだろうか、と錯覚するほどの殺意を俺に対して向けてきた。
その恐ろしい視線に背筋を震わせたのはただの前触れに過ぎなかった。


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