日に日に痣は増えていった。
相変わらず服に隠れてがいるが、服の下には鮮やかな紫があった。
特に隠してはいなかったが、それらが雅の目に触れることはなかった。


その日も俺は授業が終わり放課後になってすぐ、風呂に入っていた。
夜になると共有スペースには雅と一緒に生徒会の豪華フルメンバー様が帰ってきてたむろっているからだ。
そんな居心地の悪い空間にずっと居られるほど俺のメンタルは強くなかった。
だから放課後、雅が生徒会室に呼ばれている間にすませてしまうのが常だった。
浴室から出て脱衣所で服を身に着ける。
間違って半袖を持ってきたようだ。
もう六月も終わりかけていたが、俺はまだ袖が長い服を着ていた。
制裁されているときに後ろに押されたときうまく受け身が取れなくてできたもの、強い握力で握られて出来た指の形をした痣が腕にもあるからだ。
しかし、俺はこの時重大な過ちを犯していたのだ。
雅の行動パターンをすべて把握したつもりでいたのだ。
それから彼がまだ帰ってきていないだろうからいいかと、半袖のシャツを着て扉を開いた。
俺の予想を裏切って、扉の目の前には雅がいた。
驚いて眩暈がした。
同時に吐き気を催した。
失神してしまいたかった。

彼は扉が開いた音で気が付いたのか、少し驚いたような顔をしてこちらを見た。
驚いて固まっている俺の近くまで大股で歩いてくる。
俺は何故か気まずくて俯いた。
雅の視線は確かに俺に絡みついていた。

「・・・おかえり」

自分でも情けない声が出た。
咄嗟に出た台詞がこいつを迎え入れる言葉だなんて滑稽だ。
こいつを迎え入れる気なんてサラサラないのに。

「・・・ただいま」

彼が言葉を返したことに少し驚いた。
こんな子供染みたやりとりなど嫌う種類の人間だと思っていたからだ。
でも案外それは間違いではないのだと思う。
彼の眉間には皺がより心ここに非ずといった感じだった。
仮にも恋人なのに二人きりでまともに交わした言葉がこれが初めてな気がする。
間違いではないだろう。
昼休みは雅の希望で食堂で昼食を食べるが俺たちの席は一般なのに生徒会メンバーが居て、周りからは憎悪の視線が飛んでくる。
そんな環境で口を開く気になれないし、なにより生徒会の皆様方が雅にマシンガントークをしかけてくるのでそんな暇はない。
そんな対して重要でもないことを考えていたら、左の肩と右肘に熱を感じた。
彼の手だった。
俺より身長が高い雅の手は大きく、しっとりと肌に触れ鳥肌がたった。
雅と目が合う。
その時に少し碧いのに気が付いた。
クオーターなのだろうか、とまたいらないことを思う。
その少し碧い瞳には何か暗いものが見えた。
重々しい雰囲気の中雅は形のいい唇をゆっくりと、動かす。

「この跡、誰につけられた?」

鋭い視線と低い声に怯えて、答えなければ、そう思うのに唇は動かない。
俺の怯えに気が付いたのか雅は眉間のしわを消し、穏やかな声音で呟く。

「誰に、やられたの?」

先程の台詞より恐ろしく感じる。
顔は微笑んでいるのに目はいまだ暗い何かを湛えたままである。
それでも、まだ喋らない俺に痺れを切らしたのか、俺の両側の壁に手を付き、顔を近付けてきた。
この距離はなんだ。
間抜けにもその時の俺の頭にはそれしか浮かばなかった。


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