非王道系
転入生×平凡
未来話含む





目を開けるとそこは見知らぬ部屋だった。
頭が痛い。
恐らく二日酔いだろう。
同僚と飲みに行ってからの記憶がない。
いや途中まではあるのだが、あるところからプッツリと記憶がない。
それは昔の面影を持ったままの忌々しい顔。
それを見た後から記憶がない。
まさかそんな。
また夢で見たのだろうか。
夢ですら会いたくないが現実ではもっと会いたくない。
しかしアイツと俺はもう交わらない線の上を平行に歩き続けているはずなのだ。
間違いが合ってはならない。
俺はアイツと再び出会ってはいけないのだ。

とりあえずベットから出ようとした所で何も身に纏ってないことと腰の痛みに気が付いた。
どこか知らない他人の部屋に居る時点で薄々予感はしていたけれど受け入れたくない。
背後には確かに人の温もりらしきものがあった。
今は居ないようだがきっとこの部屋ではない所にいるのだろう。
よく見るとシーツも汚れており、昨夜の事情の香りが漂っている気がする。

気だるい腰を上げながら服を探す。
ベットから立ち上がるとひりひりと痛むそこから濡れた感触。
太股を白濁色の液体が伝っていることを想像するとやるせない気分になってくる。
それと同時に嫌な思い出まで蘇ってきて嫌悪感が募る。
なんて皮肉なんだろう。
あの時は苦痛しか産み出せなかったか行為が今では快楽しか感じない行為として抜け出せないでいるとは。



高校時代俺は進学率で選んだ私立の全寮制のお坊っちゃま学校に在学していた。
1年目は順調だった。
男子校という閉鎖された空間の中男同士の恋愛が蔓延っていたが平凡な俺に興味を示すものも居なくて、数少ないノンケ仲間と平穏な日々を送っていた。
そんな俺の日常に変化が起きたのは2年に上がったときだ。
今まで空いていた寮の同室が埋まった。
それが転校生、天王寺雅だった。
黒い髪を長く伸ばし分厚い眼鏡をかけた根暗そうな奴。
それが第一印象だった。
奴は生徒会のメンバーをことごとく虜にしていった。
雅は凄く俺様で理不尽な性格だったが恋は盲目一度惚れれば生徒会の彼の評価が下がる事はなかった。
その頃はまだよかった。
妬みや憎しみの感情がまだ雅の方に向いていたから。

それから少し経って、雅は鬱陶しかった前髪を切った。
ボサボサだった髪も綺麗に切り揃えて、髪を染めた。眼鏡も外した。
現れたのは見たこともないような整端な顔立ちの青年だった。
雅の事を憎んでいた生徒達も見目麗しい彼を批判しなくなり、それと同時に雅は崇拝されるようになった。
それほどまでに彼は美しく知性があり権力もあった。
あの当時の学園のトップは天王寺だったと言っても過言ではない。
だって彼は学園―――天王寺学園の理事長の甥であったのだから。

今まで雅に向いていた嫉妬や憎しみは全て俺に向かった。
その頃気が弱く雅に逆らえずいつも一緒に居た俺は生徒会メンバーからも彼らを慕う者達からも疎まれていた。
この時、俺は全校生徒のほとんどから敵視されていた。
机に落書き、悪口は既に感覚が麻痺してあった。
さらにそれに拍車をかけるように雅は全校生徒が集まる食堂で俺に告白し、返事をする前に俺を抱き締めて囁いた。

「断ったらどうなるかわかってるよな」

俺はその悪魔の囁きに顔を縦に振るしか道は残されていなかった。

天王寺雅。
その当時の学園の影の支配者。
彼は思い道理にならない人物は全て消した。
雅にガンをつけたと言われた強面の先輩。
ストーカー紛いのことをした後輩。
みんな学園から追放された。
しかしそれを咎めるものは誰もいない。
歪んだヒエラルキーの中俺は表面上雅の隣に居たが、どんどん下に墜とされていった。

雅と付き合いだしてから雅は更に俺に構うようになった。
俺の机や靴箱の惨状もどんどん酷くなっていったが雅は何も言わなかった。
生徒会メンバーが勝手に呼んでいただけの名前も雅本人から『恋人の特権』と言われ呼ぶように言われた。
誰かが居るところで『雅』と発するだけで嫉妬の視線が絡み付き、誰かの憎しみが体内に蓄積されているようだった。

机や靴箱のいたずらに何も反応しない俺に痺れを切らせたのか、親衛隊は次は直接的な行為に出た。
所謂暴力である。
小柄な男子数名で殴る蹴るの暴行。
小柄でも男子は男子だ。
普通に殴られれば痣が出来るし腹を蹴られれば吐き気を催す。
しかし親衛隊もせこいものらしくあんまり日常に不備が出ては雅にばれ、更に甲斐甲斐しく世話をやかれてしまう。
彼らはすぐ回復する服に隠れるところばかり執拗に攻撃してきた。
それでも俺は毎日学校へ行った。

そこにあったのは意地とプライドだけだった。


prev next

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -