「菜月」
「………なに、」
怖い怖い怖い。
絶対零度の禍々しいオーラを垂れ流しながらゆらり、此方に近付いて来る凉。
凉の目がイッてるのは俺の気のせいだそうに違いないきっとそうだ絶対そうだお願いだから事実であってください。
「菜月、」
鋭い声でまた呼ばれて凉の方に引き寄せられる。
すとん、と俺よりは広い胸板と太い腕に捕まえられる。
…すいません、ここ教室なんですが。
クラスメイトの好奇の視線が痛い。
ぐいっ、と顎を持ち上げられさっき脩斗に舐められた所を上塗りするように舐める。
何度も往復する感触に膝が笑う。
「ぁっ……りょ、う」
「んな顔すんな」
少し顔を上げた凉の右手が伸びてきて、俺の額にでこぴんをする。
そんな顔ってどんな顔だよ。
多分赤くてぶっさいくな顔してるんだろうな。
そう思うと少し申し訳なくなったがその原因は凉にあるので謝りはしなかった。
そんな事を考えていたら、凉の顔がまた首筋に近付いていたことに気が付かなかった。
「っ…ったい」
ちゅ、と可愛らしい音をたてて離れる唇。
その音に血の気が引く。
「りょ、凉!!もしかして…」
続く言葉はあまりの羞恥に出てこなかった。
ちゅって吸われて痛いって完璧キスマークだよね!?
あっでもまてよ、凉みたいなイケメンが俺みたいな平凡にそんなことしてどうなるんだ。
気のせいだそうに違いない。
百面相している俺に凉が不満げな顔になった。
「菜月、言っとくけどソレ、れっきとしたキスマークだから。」
「…ばかやろう、俺の心読んでんじゃねーよ」
「ばーか、お前がわかりやすいんだよ」
そう言ってへらり、と笑う凉。
ああ、俺はこの笑顔に弱いんだ。
大人びた彼が見せる年相応の柔らかい笑顔が。
だから、きっとこれも許してしまうんだ。
「もうすんなよ、ばーか」
「知らねー」
そう言って、またへらりと笑った。
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