memo | ナノ


末っ子がグレた。
非凡で個性的な兄弟の中でいい意味で平凡だった末っ子が。
日本人らしい黒髪に黒目だった彼は両目に赤いカラコンを入れ、眼帯を付け、更には腕や首に包帯を巻き、不可思議な言動も見られ始めた。
このままではまずいと、末っ子を愛してやまない義父は考えた―――このままでは息子がチュウニビョウになってしまう―――と。

ことの始まりは次男の一言だった。

「我が家の末っ子ちゃんはどーしちゃったのー?」

妙に間延びした喋り方をするのが我が家の次男の特徴だ。
茶髪の甘いマスクの彼には夏の夜の電灯に群がる虫の様に女がよってくる。

義父は努めて冷静に「どういうことだ」と返した。

「カラコン入れ始めたよねー?でも学校はそーいうの禁止っしょ?あの優等生くんがさー、どうしたのかねー」

その語り口からはあまり深刻そうに感じられないが急に非行に走り出した弟を案じる気持ちが義父には痛いほど感じられた。

「あとさ、アイツ怪我もしてないのに包帯巻いてるだろ、何で?」
金色の頭をした素行不良の三男が言う。

「俺も『呪われしオレの右目が…』とか言いながら眼帯をしている方の目を抑えているのを見てしまった」

知的な細いフレームの眼鏡を掛けた賢い長男が言う。

確かに兄達の証言はどれも心当たりのあるものだった。

すると次男が「厨二病ってやつですかねー」と呟いた。

「チュウニビョウ?何だそれは」

長男が私の心情を代弁してくれた。

「んっとねー、中学二年生くらいの男子にありがちな『こんな俺かっこいー!』って思ってキャラ作りとかしちゃう痛い病気のことー」

自らのスマートフォンを弄りながら、答える次男。

「ん、コレ」

差し出されたスマートフォンを覗いてみると「厨二病」と書かれたオンライン百科辞典のようだった。軽く目を通す。確かに書かれている症状はうちの末っ子の行動によく当てはまった。そのあとは三人の兄と義父による可愛い末っ子の未来を心配する会議が開かれたのだった。

* * * * *

「うううー」

顔を真っ赤にさせて唸っている末っ子。
二人きりの晩酌に付き合わせて酒の肴だと、昔の話をし始めたのが悪かった。可愛い末っ子にとってはただの黒歴史であろう出来事について、本人の預かり知らぬところで兄達と義父にそんな話をされていたことを知り羞恥に悶えている。そんな末っ子も可愛いなと愛しげに見つめる義父はただの親バカである。

「まぁ、いいじゃないか。今ではもう落ち着いているんだし」
「落ち着いてなきゃ困るだろ!もう大学生なんだぞ!」

心底恥ずかしそうにこちらを睨みながら文句を言う末っ子に頬が緩む。

『あの頃はイケメンで非凡な兄達に囲まれ、平凡な自分が嫌だったんだ』とは彼の言い訳である。

拗ねてそっぽを向く末っ子に義父は「今度好きなものを買ってやるから」と機嫌をとるのだった。

fin

* * * * *

一応完結?平凡を捨てるから何故厨二病になったのかは謎。でも厨二病なキャラは昔から書きたかった。愛情過多気味になったかはわかりません。(義父)でも義父は見ての通り愛情表現が下手です。とりあえず末っ子が可愛くて欲しいって言われたらまず買う方向で進みます。末っ子は簡単に欲しいって言葉を口にしないようになります。(義父が買ってくるから)あ、あと最後は大学生の末っ子と義父の二人暮らし設定です。(兄達は独り立ち済み)末っ子もまぁファザコンなので実家の近くの大学に進学し父さんが寂しいだろうから一緒に暮らしてあげるよっていうツンデレタイプです。でも大学ではお前のとーちゃん格好いいな!って言われるとだって俺の父さんだからねってすごい自慢してます。大好きです。ファザコンです。兄達が呆れるくらいにはファザコン親バカです。