羽根のように軽くても


トリップ
pictの重力マンガから発生

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終戦を迎えて70年経った国に住んでいたアンには勿論戦闘経験なんてものは無い。だが今、紛れも無く命懸けの戦いが目の前で起きている。
ユーリ達が魔物を倒している後ろに、戦闘経験がないからと待機しているアン。念の為と持たされた、杖に刃物が付いたような武器を握り締めながら息を飲んで戦闘を見詰めていた。

「アン!!」

突然、ユーリがアンの名前を叫ぶ。それと同時に魔物の放った術がアンの方へと向かってくる。

「?!」

真正面から向かってくる術は避けなければ致命傷になるだろう大きさだ。

「よっ!」

取り敢えず防ぐ方法が分からないなら避けるしかない、と両足に力を込めて後方へ飛んでみる。

「ぁっ?!」

体が軽い、まるでトランポリンの上にいるかのようだった。アンの力一杯の脚力に対し、軽い身体は勢い余って両手も付かず高く跳んだ宙で一回転。上空から見下ろしたユーリ達は驚きで目を見開いていた。

「ユーリ!まえ、まえ!」

「?!っと!」

戦闘経験がないと言っていたアンの回避力に驚いている隙に、術を放った魔物がユーリへ襲いかかっていた。アンは拙い言葉で戦闘へ集中するように指示する。無事避けられたようだ。
着地に集中しようと地面へ視線を向けると、まだ地面が遠いことを確認すると、もう1回転空中で体を捻り着地する。タトン、と軽い音だけが耳に入った。

「ラスト!!」

切りつける様な音とユーリの声がして戦闘は終わる。

「ほわぁー・・・」

アンは驚いて変な声を上げる。
空中で2回転する程の高さがあったのに、着地の衝撃は階段を5段程飛ばして降りた程度のものだった。元々運動神経は良い方ではあったがこれは一体どういう事か・・・アンは酷く困惑した。

「おいアン!大丈夫か?」

「うーん・・・」

刀を鞘に収めながら駆けてくるユーリ。弱い魔物だったのか、パーティーメンバーも全員無傷の様だ。安心と己自身に何が起こっているか分からない不安にアンは上手く言葉を返せずに居た。
そして突然思い付く。

「ユーリ、だく、わたし」

「あ?!」

「?・・・ユーリ抱く!私!」

「大体分かったらちょっと待て!!」

「アン、とっても大胆です・・・」

最初の言葉に困惑の顔をしたユーリに発音が悪かったのだろうと勘違いしたアンはもう一度、抱き上げて欲しい、とハッキリ言葉にする。しかし文法が間違っていたのか言葉を遮る様に慌てるユーリと、顔を赤くするエステリーゼの姿に混乱する。

「アンそこは、抱き上げて欲しい、または持ち上げて欲しい、だ。文法間違ったらとんでもない事になるな・・・オレじゃなかったらくわれてるぞ」

「え?!アンを食べちゃうんですか?ユーリはまさか食人鬼だったんでしょうか・・・どうしましょう!?」

「こらーエステル、そういう意味じゃないから勝手に暴走するなー・・・天然2人いるとややこしいな」

ユーリは少し遠い目をしてからアンに近付く。抱き上げて欲しいという事は何処か負傷したのかもしれない、かなり高く跳んでいたし着地に失敗したせいで不安そうな表情をしているのかも・・・と予測を立て、足に負担が掛からないよう肩に抱えていこうと決める。

「おっ!?」

アンのお腹に腕を回し肩へ担ぎ上げようとして驚いた。軽すぎるのだ。人1人担ぐつもりで入れた力だったが、このままではアンを後ろへ勢いよく放り投げてしまう。そう判断したユーリは直ぐに力を抜き、両腕でアンを支え胸の前でだき抱える。

「アンわり!お前軽過ぎて後ろに放り投げちまうとこだった」

「だいじょうぶ」

「そんなに軽いんです?」

「あぁ・・・エステルでも抱き上げられると思うぜ」

胸の前にだき抱えていたアンを地面に降ろすと、エステリーゼが近寄って来る。

「失敗します・・・わっ!ホントに軽いです!どうなってるんですか?!」

「オレが知るわけ無いだろ、アンに・・・って言葉通じてないのに説明は無理だわな。アン自身よく分かってないから抱きあげろとか言ったんだろうし」

細身の女性であるエステリーゼさえ、軽々とアンを抱き上げる事が出来る。一体アンの身に何が起こっているのか、分かるものは此処にいない。
地面に足を着けたアンは不安そうに顔を伏せた。

「大丈夫だアン」

ユーリはアンの片手をそっと握った。

「お前がどんだけ軽くてもこうやって手を握っておけばどっかにポーンと飛んでくこともないって」

「・・・?」

「手を握る、離さない、だから大丈夫」

「!・・・はい!」


「心配すんな、簡単に離したりしねぇよ」

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