気付かないほど自然に


「ジュディちゃん、ハグしていい?」
「あら、アンならいいわよ」
「わーい!」

時々行われる2人の抱擁。
アンは子供のように喜び、豊満なジュディスの胸に顔を埋める。ジュディスは背中に回されたアンの腕が、覚えてもいない母親の様に優しく撫でてくれるのが好きだった。つまりwin-winなのだ。

「ちょっとちょっと!アンちゃんめっちゃ羨ましいんですけど?!」

それを偶然目にしたレイヴンが声を上げる。

「あら、おじ様はアンみたいに下心なく抱き締められるの?」
「・・・あったり前じゃない!この紳士レイヴン、ジュディスちゃんを優しく包み込んであげるよー!」
「顔に下心丸出しだから却下。行きましょアン」
「うあーい」

ジュディスはアンの頭を胸に抱えたままレイヴンから離れた。

「おっさん懲りねぇな」

一部始終をレイヴンの背後で見ていたユーリは、呆れた様に声を掛ける。ユーリとて男である以上女性が好きなのは理解出来るが、レイヴンは毎度下心丸出し過ぎるのだ。女性陣から距離を置かれるのも当然である。

「何よ!ユーリだって男なんだから女性の胸にロマンあるでしょ!」
「そーですねー、はい置いてくぞー」
「それでも男かー!」

ユーリはレイヴンへ適当に返しながらアンとジュディスの後を追う。その後ろでは、レイヴンが抗議の声を上げていたがスルーだ。

「それでねっおわ!?」
「っおい!?」

ジュディスと雑談をしていたアンが地面に躓いた。アンを追い越そうとして後ろに居たユーリも巻き添えをくらいアンへ覆い被さる様に体制を崩す。足を1歩前に出せれば踏ん張りも聞くのだがそんな隙間も無いまま地面が近付く。せめて下敷きにしない様に、とアンを挟み込むように両腕を地面へ向けて伸ばす。

「わっ!」

2人が地面に倒れ込むとアンの声がしてユーリの目の前に青い着物の合わせが広がる。地面に顔から突っ込む事を回避しようとしたアンがユーリの方へ体を向けたのだ。
先程レイヴンへ興味なさげに返したユーリだったが、思い出して欲しい。拒否はしていなかったことを。
目の前に広がる好きな女の胸元に顔を埋めない男が居るだろうか。
ユーリは伸ばしていた腕を折り地面に肘をつく。
あくまで、自然に、巻き添えをくらって転けたかのように胸に顔を埋めた。
ふんわりと柔らかい、結構ある。

「あわ!?」
「わり」

ほんの少しの時間だが十分堪能できた。
ユーリはサッと立ち上がり、一言謝りながらアンを起こすために手を伸ばす。余りにも自然な流れであったためアンは胸に顔を埋められたことなど気にならなかった。

「ごめんユーリ、前見てなかった」
「気を付けろよ・・・オレも下敷きにしたけど。痛くなかったか?」
「大丈夫!気にしてくれてありがとう!」
「おう」

ユーリはアンを引き起こすと、何事も無かったかのように手を離し歩きだす。そこへジュディスが静かにやって来た。

「ユーリ」
「なんだよ」
「あなた受け身取れてたでしょ・・・わざとね」
「・・・下敷きにしたのは事実だけどオレは巻き込まれただけだ」

「・・・そういう事にしといてあげる」

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