タツの腕にクナイが突き刺さった。

「ッ!」

「さあ、さっさとその手を放してくれませんか?」

ニコニコと笑みを浮かべながら功風は手に持ったクナイをタツに投げつけた。手を離すわけにはいかないタツはただそれを耐えるしか出来ない。

「タツ!」

一方タツの手を借り、なんとか壁から脱出した史憲は刀を抜いて功風に襲いかかるが、その前に功風から放たれたクナイが足にささり、足が動かなくなる。

「史憲殿!」

「邪魔するからこうなるんですよ?」

ニッコリと微笑み功風は腰にさしてある刀を握る。

「功風殿! これ以上のことは盟約違反だ! 上の指示を仰がずにこのようなことをすれば貴殿も罰せられるぞ!」

澄信の声に、功風は嘲笑した。

「──朔月はもともとあなたとの同盟を守る気はなかったのですよ?」

「な!?」

「朔月があなたに目をつけたのはつららさんという優秀な術使いがいたからです。上の方は行平様とつららさんを戦わせ、傷だらけになったつららさんを回収し、行平様が実平様の元に戻った時、行平様を手に入れるつもりだったんです」

澄信の怒りの目に功風は笑う。

「でも、いざというときのために俺は保険をかけていました。……何か分かります?」

「保険……!」

澄信がつららの方へ視線を移すと、そこには澄信がつららに渡した勾玉がドス黒く輝いていた。

「闇の力に人を操る術があるんですが、その場合、操る相手に自分のモノを渡さないといけないんですよ」

功風は嬉しそうに言う。

「ご協力ありがとうございました、澄信様?」

「──!」

(そんな、では俺は……)

自分がこの世で一番守りたい者、家臣ではなく妹のように思っていた者。──それをこんな目にあわせたのは、自分?

ガクリ、とその場に崩れ落ちる澄信に功風は刀を振り上げた。

「──何で術使わねえの?」

その刀が澄信の首もとまで来たとき、唐突に行平はそう言った。行平のその言葉に功風が笑う。

「何故って……こんなザコ相手に本気ん出すのは恥だからですよ」

「嘘つき」

功風の言葉に、行平は笑う。

「本当はお前、力がそんなに強くねーんじゃねえの?」

「なに……?」

功風が持っていた刀を放り投げ、行平を睨みつける。

「どういう意味……? 行平様」

「お前は"本当の功風"より弱いっつってんだよ」

笑みを崩さない行平に功風はクナイを投げつけた。が、そのクナイは行平の持っていたクナイによって防がれた。

「本当の功風?」

一方、澄信は二人の話の意味が分からず、困惑していると功風は笑った。

「本当、じゃないですよ? "今"の本当は俺です」

「今?」

「……もともとこの体の主は行平様のお側使えである功風という男のモノだったんですよ。でもある時その男は禁じられた術具を身に付け、体を乗っ取られたのです。で、それ以来この体は俺のモノになった……というわけです」

功風は煩わしそうにそう言うと澄信には目もくれず行平を見る。

「身内贔屓はあまり感心しませんよ」

行平は苛立ちげに言う功風に嘲笑する。

「功風はお前と違って術具なんてなくても人を操れたぜ?」

「!」

「あいつはその人物を一目見るだけで操れてたからな。……まあ本人はその力を嫌がってたから俺くらいしか知らないだろうけど」

「ウソだ!」

功風がそう叫んで行平に襲いかかる。行平はそんな功風を見て、

「ああ、ウソだ」

と言った。

「!?」

功風の手が止まる。

「功風はテメェみたいな性悪じゃねーからな、そんな力を使ってなんかいねえよ。……それより」

行平は功風の後ろを指し示す。

「こっちばっかりに、関わってて良いのかよ?」

──功風の手に、氷の刃が刺さる。

(まさか……!?)

功風が後ろを振り向く。

「……ずいぶんと勝手なことをしてくれたな」

──つららが扇子を功風に向けていた。


 * * *


功風は腕を抑えながらつららの首もとに目をやると、先ほどまであった勾玉が粉々にくだけ、なくなっていた。

つららの隣にはナツがいた。それを見て功風は今まで自分は上手いように動かされていたことに気づいた。

「……行平様に俺の注意を引きつけておいて、自分は勾玉を破壊、か。大した奴だよ自分の主を危険に晒すなんて」

「周囲の注意に怠り、このような状況になったバカに言われたくないですよ」

ナツはそう言ってニッコリと笑う。

「でもまあ、あなたみたいなバカに功風様と同等の理解能力があるとは思ってませんけど」

「うるさいなあ!」

功風はナツの言葉に苛立ち叫ぶ。そして、今度は狂ったように叫び始めた。

「あぁあぁあぁ! もうメンドクサイ! メンドクサイ! もう命令なんてどーでも良いよ! みんな殺す!」

功風のただならぬ雰囲気に、行平とつららに身構えた。

──その時。

「そこまでです」

「!」

二人の見ず知らずの男が現れ、その二人を視界に入れたとたん、目の前の景色が消えた。





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