「今日は機嫌がいいですね」

「え?」

先ほどまで元彬の要望で笛を吹いていた忌司は、いつもにましてニコニコしている元彬にそう声をかけた。元彬はそんな忌司の言葉に困惑した表情を浮かべた。

「そ、そうか?」

『そうね。とっても良いことがあったかのような顔だわ』

忌司の側にいた死誘も同意し、わけを問いただす。

元彬はそんな二人に先ほどの出来事を言おうか言わまいか考えて──本心では誰かに聞いてもらいたかったためか──口を開いた。

「じつは今日、二人の子供と森の中であったんだ」

「──子供?」

元彬の言葉に忌司が微かに反応した。その反応の意味に気づかなかった元彬は笑いながら話を続ける。

「ああ! 二人ともおれをこわがらなくて、ふつうにせっしてくれたんだ! おれ、そういうあつかいしてくれたの忌司たち以外初めてだったからうれしくて…」


「──森の中に子供が二人いたんですね?」

冷め切った声が元彬の耳に届いた。

「この神聖な森に」

冷たい目が元彬を捉えた。

「そうなのですね? 元彬」

その言葉を聞いて、元彬は自分が失言をしたことに気がついた。

(そうだ。忌司は自分のばしょに人がいるのをいやがるんだった……)

ハッとした所で言った言葉は消すことはできない。元彬は急いで弁明するように口を動かした。

「で、でも、その、あいつら悪い人じゃないし……まちがえて入りこんじゃったみたいだから! 明日おれがあって話してばしょ変えてもらうから……」

口ごもりながらもそう言った元彬をみて、忌司はニッコリと微笑む。

「そうですか。では、お願いしますね」

その笑顔をみて、元彬が緊張をとく。そんな元彬をみて忌司は先ほどまで膝に置いていた笛に手をのばす。

「じゃあ、笛の続きを吹きましょうか」

「ああ!」

忌司は嬉しそうに笑う元彬をみて笛を口元へと運んだ。

──その姿を最後に元彬はその日の記憶がなくなった。




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