昼餉を食べ終え、襖を開けて空を眺める。憎らしくなるほどの快晴だった。

「今日は……会いに行ってみようか……」

ポツリと呟いてみた独り言に返ってくる言葉はない。いつもの事だった。

母屋を見ると、昼餉を下げるのに忙しなく動き回る女中の姿が目に映った。

もうじきこの離れにも女中が下げに来るのだと思うと気が沈んだ。

(行くか……)

塀を崩した、外への抜け道へ足を進めた。


 * * *



山の中を幾分が進むと、人の話し声が聞こえてきた。だがそれは自分が求めている人のものではなく、幼い子供のもののようだった。

恐る恐る進んでいくと、どうやら言い争いをしているようだった。

「ここはおれの場所だって言ってんだろ!」

「おれはここで剣のしゅぎょうをしていたのだが、後から来たのはきでんの方であろう?」

「なんだよきでんって、難しい言葉使うな、おれわかんないんだかんな!」

「しょもつを読め。さすればわかるぞ」

「せつめいしろよバカァ! おれきょういく係りのオッサンきらいなんだからせつめいしろよぉ!」

「だからしょもつを読めと……」

「とりあえず、ここはおれの!」

俺はこの場を立ち去らなければいけない気がした。踵をかえすと、ガサッと音を立ててしまった。

「あ……」

顔が青ざめるのが分かった。

あんな言い争いに自分が加わるのは嫌だったのだ。足が動かなくなった。

「だれかいるのかー?」

そう言いながら近づいてくる音がする。本当に、来ないで欲しい。

木の葉の間から、ヒョコリと2つの顔が覗いた。

「こんなとこで何してんの、おにーさん」

「しょたいめんの者にそのような口のききかたは無礼であるぞ」

大して自分とは変わらぬ年頃に見えた。

だが、彼らの着ている着物は、明らかに上等な物だった。

「おい、何かしゃべれよー、つまんないだろ」

ポカンとしていたらしく、肩を叩かれた。




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