一人の男が暗闇の中に倒れていた。男はまだ生きているようで、小さく体が動いている。

「なんだまだ生きているんですか」

そんな男をまだ、13、14ぐらいだろうの少年が見下ろしていた。少年は言う。

「すいませんが早く死んで戴けませんか? 久しぶりの殺しの依頼ですし、死誘にも食事を与えたいんで」

そう、ニコニコと無邪気な笑みを浮かべる少年はまるで鬼のようで、男は背筋に悪寒−というには重すぎる恐ろしさを感じていた。

しかし、男は残された勇気を振り絞り、叫んだ。

「な、なにが望みだ!」

「はい?」

「どうして私を、家族に手をかける!」

男はもう死に絶えた家族に視線を向け、少年に問いかけた。

一方少年はと言うと、そう言った男に驚きの表情を向け、不思議そうな声で問いかけた。

「あなたにも、そんな思いがあったんですか?」

私に殺しを依頼してきた人に鬼だと聞いていたんですかね、と少年は言ってクスクス笑う。笑う笑う……。

「ふ、ふざけるな!!」

怒りで目の前が真っ赤になった。この餓鬼はいったい何を言っているのか。

「正義にでもなったつもりか!! バカバカしい! 私も人に誉められるような生き方をしていないが、貴様のように罪悪感のかけらのない奴よりマシだ!」

そう、私は人に誉められるような生き方はしていない。国司である立場ゆえ、多くの民の財を奪ってきた。それについて民が私を恨んでいると知りながら。罪悪感が無いわけではない。

自分のせいで死んでいく人を見るのはつらかった。けれども私はそれをしなければならなかった。──自分が生き残るために。

私のような国司にいったいなにができるというのだ。上からの命令に従い、財を奪わなければ生きれない私が。奪った財は私のものになるわけもないのに、上の命令ゆえ奪わないといけない私が、なにができると。

「私はただ自分が生き残るためにしただけだ! 自分が裕福になりたいと思ったわけでもない! ただ納めなければならぬ税を──」

「なんだ、それなら私たちと同じじゃないですか」

少年は男の言葉を遮り、笑う。男はそんな少年を驚いたような顔で見つめた。

少年は言う。

「この子…今私の隣にいる女性ですが、彼女は死誘という存在なんです。死誘はその名のとおり『死を誘う』生き物で、死を誘うことこそが存在意義なんですよ。……だから貴方と同じように私達は『自分が生き残るために』貴方を殺すんです」

「ふざけるなあああああ!」

男は刀を握りしめた。





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