つららは今、自分が何をしようとしているのか分からなかった。

体がいうことをきかない。制御する事が出来なかった。

ツグが肩を掴んできた。彼女は何かを叫んでいたが、つららには何も聞こえてこなかった。

つららの手が、攻撃用扇子を握る。

(ダメだ、それを持っては──!)

そう思うものの、体は勝手に動いていた。

つららの信じたくない光景が目の前に広がる。氷の刃が深々とツグの足へ突き刺さり、彼女は倒れていった。

(ッ!!)

何故自分はこんな事をしているのか。何故自分は自分を制御出来ないのか。つららには全く分からなかった。

頭の中が混乱している。だんだん自分が何を考えているのかすら分からなくなってきた。

──殺せ。

男の声が、つららの脳内に響く。

──その者達を、殺せ。

つららの視線が、史憲とタツに向けられる。

(私は、この者達を殺さなければ、いけない?)

扇子が振り上げられた。

(何故?)

──そんな事、考える必要なんてないよ。

(ああ、そうか)

再び氷の刃が作り出される。その結果を見ながら、つららは男の声を聞いていた。

──ほら、次はあの男だよ。

つららの視線は強制的に澄信へと向けられる。

(この、男も私が殺さなければ、ならない?)

扇子は澄信の方へ向けられた。

(ダメだ、それだけは、きっと、してはいけない)

──何言ってんの。お前は俺の言うこと聞いてればいいの。

氷の刃が形成される。

つららは、自分の涙に気付くことなどなかった。


 * * *


行平はクナイをしっかりと握り、功風の気が澄信へと逸れている内に、と思いつららの勾玉へ手を伸ばす。

「何しようとしてるんですか、行平様」

しかしそれは呆気なく失敗に終わってしまう。

「──ッ!」

行平の手は氷の盾により遮られる。

「ちゃあんと、ナツの言うことは聞かないとダメですよ、行平様」

そう言うと、功風は行平を見てニッコリと微笑んだ。

「それとも、そんなにけ女を助けたいですか?」

「ちがっ、俺はただ──」

功風の目は笑っていない。今までにないほど冷ややかな光を帯びていた。

「大丈夫ですよ、行平様。大切な存在が増える前に消して差し上げますよ。──俺のこの手で」

その言葉を聞いた澄信の目が見開かれた。

「お主、何を申す! つららには手を出さぬと──」

「そんな事、言いましたっけ?」

功風は満面の笑みを浮かべる。

「なっ!」

「所詮は"口約束"ですよ、澄信様」

そう言うと、功風はつららの方を向く。

するとつららは、ゆっくりと扇子を自分の方へ向けた。

「──つらら!」

ビリ、と衣服の破れる音がした。

氷の刃が徐々に作り出される。つららは作り出された氷の刃を自らの手で持ち、首もとへそれを運ぶ。

その目は、ほんの一瞬澄信を捉えた。

刃の切っ先が、首の皮膚にあてられた。

しかし、その刃が皮膚を突き抜けることはとうとうなかった。タツが、つららの腕を掴んで止めたのだ。

「……まったく、邪魔ばかりしてくれちゃいますね」

そう言った功風の顔は、最早笑ってなどいなかった。






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