氷の刃が澄信に襲い掛かる。

澄信は避けられない。

そして次の瞬間にはその氷の刃が澄信の胸を貫く──

──はずだった。

「……何してんだ?」

行平がその氷を燃やさなければ。


 * * *


「気がついたら……メチャクチャ悪趣味な光景じゃねえか。つらら」

行平は目の前で氷の刃を出したつららを見る。つららはそんな行平を睨みつけた。

この目には見覚えがある。

「これは──」

「これは!? 見覚えがあるのか!? 行平殿!」

行平は澄信の言葉には返事をせず、つららに襲いかかった。

「行平殿!? 何を……!」

澄信が行平を止めようと声をあげる。行平はその声に怒鳴り声をあげた。

「テメェ邪魔してんじゃねえよ! 死にてえのか!」

「それよりつららだ! 今つららに何を……!」

澄信の言葉の間にもつららからの攻撃が行平へと襲い掛かる。行平は澄信の言葉は無視することに決め、つららの攻撃をかわしながら、小さな術を唱えた。

「縛!」

行平のその言葉とともに、つららの体が糸が切れたように倒れ込んだ。

「つらら!」

澄信がつららのもとへ駆けつけようとするが、その前に行平が澄信の手を掴んだ。

「近づくな。──殺されるぞ」

「な!」

驚く澄信を見て、史憲が口を開く。

「……随分とこの状況が分かってるようじゃないか。見覚えあんのか?」

「……答える義理はねえな」

行平はそういうと懐からクナイを取り出した。

「な……何をするつもりだ!」

澄信の制止の言葉に行平は答えず、クナイを持ったままつららに近づいた。

「ま、待ってください行平様!」

「!」

今まさにつららの肩に振り下ろされようとしていたクナイを犬耳の少年がが取り上げ、行平を見た。

「テメェ何しやがる!」

「い、一応僕と契約したんですから僕のいうこと聞いてください!」

ビクビクと怯えながら言う少年に、行平は頭に疑問符を浮かべる。

「契約? 何の話だ」

「なー! ちょっとさっきまでの感動をあっさりと忘れられた!? さ、さっき行平様の深層世界であったじゃないですか!」

「そーだっけ?」

「酷いです! まさか僕の名前も知らないって言いませんよね?」

「そんなもん……」

知るわけねえだろう。と続けようと口を開いた行平は、その言葉を続けることが出来なかった。

こいつの言っている契約がなんのことだか、行平には分からなかった。だが、"自分はこいつを知っている"。

そう思うと、先ほどの記憶が蘇ってくる。そう、たしかこいつは──。

「ナツ」

「!」

口に出そうとした言葉が背後から聞こえる。──その声は予測はしていたが、信じたくなかった人物のもので。

「俺の"前"の功風に使役していた物の怪で、行平様の暴走をとめる抑止力として"自らすすんで術具になった"物の怪ですよ。行平様」

「……やっぱり生きてやがったか……功風!」

行平の言葉に功風はにっこり微笑んだ。





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