「……やっと出ていらっしゃいましたか」

「すみません……僕、そういう力弱いんです」

「いいえ、お気になさらず」

銀髪の女性はたった今、行平の首もとにある勾玉から現れたのであろう犬耳のついた少年に笑いかけた。

つららは状況がうまく掴めず唖然とすることしか出来なかった。その様子に気付いた女性が、再び微笑み、言った。

「つらら様、この姿ではお初にお目にかかります。私のことはどうぞツグ、と呼んで下さいませ」

「ツグ……?」

つららは肩の傷を庇いながら立ち上がる。行平が倒れ伏しているのが見えた。

「はい、ツグでございます。狐と人の物の怪で、能力は……」

ツグはつららの傷にそっと触れた。

痛かったのであろう、つららの肩がびくんと揺れる。しかしツグはそれを微塵も気にすることなく顔を傷へ近付け、息を吹きかけた。

すると、ジュクジュクと生々しい音を立てながら傷が治っていく。

「──防御と治癒でございます」

先程の言葉の続きを、ツグは言った。


 * * *


澄信の目に一番初めに飛び込んできたのは、コウと、恐らく朔月の次期領主にあたる行平を、宙に浮かんだ大扇子に乗せたつららの姿だった。

二人は気を失っていた。つららの服は肩のところがざっくりと切れ、ところどころ破けたりしていたものの目立った外傷は見当たらなかった。

「澄信様、只今戻りました」

そう言ってつららは恭しく腰を曲げた。その時初めて、澄信はつららの後ろに他に二人いることに気がついた。

「……いや、つららが無事ならばそれだけで良い。……して、その二人は誰だ?」

澄信の少し急いた質問に、つららは暫く考え、そして口を開いた。

「今は、この者達が重傷を負っているので治す為にも部屋に入れてやる事が優先だと私は思います。澄信様のご質問への返答は、それからでもよろしいでしょうか」

正直自分もよくわからないのだ、この者達が何者かなんて。そう思いながらつららは自分の意見を述べた。

「あ、ああ、すまぬ。史憲殿達にも知らせねばならぬことであるし、俺の部屋の隣でその者達の治療を行えば良い」

澄信がそう返すと、つららは嬉しそうに、だが冷静に「は」と答えた。

「では、俺は医者を呼んで来よう」

澄信が呼びに行こうと後ろに振り返ったところで、誰かに呼び止められた。

「澄信様、その必要はございませぬ」

そう言われて再びつららたちの方を向くと、銀髪の女性がニコリと笑っていた。隣の犬耳を持った少年はその女性と澄信を不安そうに交互に見ていた。

「私が、治癒できまする」

澄信はただ頷くことしかできなかった。





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