「うわあ……あの物の怪なかなかやるね!」
「なかなかじゃなくて……ずいぶんだと思います」
一方その頃、そんな二人の戦いを二人の男が空の上から眺めていた。一人はとても大柄な男で、もう片方は酷く小柄な男。
空に浮いているという時点で、彼らは普通の人ではないことはわかるが、それ以外、目的も何者かということも誰にもわからない。──人が、物の怪、それかまた違う"何か"なのかいうことも。
男たちは手出しをせず、ただ上空から眺めている。"何かを待っているように"。
* * *
功風は自分の首にかかっている勾玉を手にとって自分の額にあてる。そうすると、多くの『つらら』の情報が流れ込んでくるのを確認して、功風はホッとするのと同時に、今出現した物の怪に対して苛立った。
だが、すぐに気持ちをなだめ、そのつららの情報を解析する。
(あの役立たずが!)
功風は心の中で大きく悪態をつきながら二人の対決を見下していた。今はまだ動けない。
あの物の怪は年月だけでいえばかなりの高位だ。ものすごく腹立たしいが何の策もなしに襲いかかるのは自殺行為だ。
功風は苛立つ気持ちを抑えながら──そしてある光景を見て、目を丸くした。
* * *
ズキリ、と頭が痛む。
行平は自分を押さえつけていた力が一瞬小さくなったのを感じた。が、行平は何の反応も起こさない。
(もう、どうでもいい)
本当にもうどうでも良いと思った。自らの力に逆らったところでいったい何の意味があるのだ。ここには守りたい人などいないのに。
目の前の物の怪の言葉も行平には届かない。
力が体を支配した今では早くすべてを投げ出してしまいたい。たが、それは目の前の物の怪によって妨げられてしまった。力は物の怪の行動によって全身を支配する機会を脱してしまったのだ。
行平は小さく笑った。──どこまでも力は自分を苦しめる、と。
自嘲ぎみに笑って、目の前の光景を見ると物の怪が自分の首にかかっている勾玉に手をかけていた。──その瞬間、思い出したのはこの勾玉をくれた人。
『……行平……さ、ま』
暴走する自分を助けるため、自分を省みずそばにきて、この勾玉をくれた人。
『早……く、実……平さ、まと……』
自己を失いそうになりながらも最後まで自分たちのことを思ってくれた人。
『幸、せに……な……』
最後にそう言って笑った人。
「──!」
今、アイツがああなってしまったのも全て自分のせいなのに、自己を失っても自分を助けようとしてくれたのに。その思いを踏みにじって、俺は、何を。
「……泣かないでください」
不意に声が聞こえた。
「貴方を泣かせないために僕がつくられたのに、貴方が泣いてしまったら意味がないです」
少し困ったようにかけられた言葉は声こそは似ていないものの"アイツ"を思い出して。
「さあ、こんなところにいないで一緒に外に出ましょう。この体は貴方のものなんだから」
この声は──
「功、風……?」
「……いいえ」
その言葉に、声の主は否定の言葉を返した。
その時、背後に気配を感じ、
「僕の名前は──」
その言葉を聞き終わると、先程までいた場所から強い力によって引き離された。
△ ▽