![](//static.nanos.jp/upload/f/fancyparadox/mtr/0/0/20100224221103.gif)
予期せぬ魔法をコウは避けきれなかった。
「──っく」
「コウッ!」
コウの左肩から右胸にかけて大きく赤が広がる。ポタ、ポタ、ポタと血が滴った。
「はあっ、はあっ……」
「コウッ」
つららがコウのところに駆けようと足を踏み出す。が、どこからか先程コウが受けた水の攻撃に邪魔され、コウのところに行くことはかなわなかった。
「つららっ、俺のコトは良いっスから自分の身を!」
再び襲ってきた水の魔法に、コウは口を噤んだ。
「だがしかし!」
「つららは俺の主でしょう!」
コウの言葉に、目に、つららは反論出来なかった。その気持ちだけで嬉しいっスから。そう、言われたような気がした。
──つららは目を見開いた。
(魔力が……大きくなっていく──!?)
つららの視線の先には、先程コウが吹き飛ばした行平がいた。のそり、のそりと立ち上がるその姿は、どこか獣じみたものを感じさせる。
「ハアー……ハアー……」
荒い息遣いがつららの場所まで聞こえてきた。
(──何だ、"アレ"は!?)
彼を取り巻く魔力が、雰囲気が。彼の立ち方が。何より目つきが。先程までの彼とは全く違う。
首もとでギラリと光る術具を見た。
(あれは──!)
コウも気づいたのであろう、息を呑む音が聞こえた。
明るくキラリと輝くのではなく、"ソレ"は暗く、鈍く、そして輝くことに対して貪欲なように見える光り方をしていた。
つららが父から聞いた、術具を作ってはならない最大の理由。父の言葉が何度もつららの脳内で再生される。
"術具を使い込み、そして命の危機が迫った時──"
その刹那、彼の目が、鼻が、口が、そして炎が、つららの目の前にあった。
「いつまでもジロジロと人のこと見てんじゃねえよ」
そう声が聞こえた時には、もう何もかもが遅かった。
コウが漸く見ることが出来たのは、つららの体を貫いた炎の塊の軌跡と、倒れかけたつららの体、そして離れていく行平だった。
"──術具に封印されし物の怪はその体を支配するのだ"
* * *
功風は、その力を感じ、笑っていた。
涙を流しながら、笑っていた。
だが功風は自分が何の為に泣いているのかわからなかった。
そもそも涙を流していたことにさえ気付いていなかった。
* * *
コウは時がとまりかけているのではないのだろうかと思った。つららの体が倒れるのがあまりにもゆっくりすぎる。
「つらら!」
自分が発した声さえもいつもよりゆっくりと感じられた。
何故自分は動けない──?
何故自分はつららを守れない──?
何故自分はあの光に怯えている──?
何故自分は、何故、なぜ。
総てが遅いから、コウは行平の速さがわからなかった。
ぐさり、とコウは腹部に違和感を覚えた。
「──っ!!」
痛みが、突如としてコウを襲う。ピチャ、と音をたてながら腹に刺された刀が引き抜かれた。そこからドクドクと流れ出る血を見ながら、コウは血を吐き出す。
(──つら、ら)
コウの目の前が、真っ暗になった。
△ ▽