「はあ、はあ」
自分の呼吸音だけが聞こえる。咄嗟に作り出した氷の盾は、燃え盛る炎の中で保つ事は難しかった。
「コウ」
つららは隣にいる鷹の物の怪をチラリと見た。
「何スか」
「鷹の姿に戻れ。風は操れるか?」
「……ええ、まあ少しなら」
「そうか。なら、自分の周りに風が来ないようにしておけ。……炎の中から脱出するぞ!」
それを聞いたコウは鷹の姿に戻り、つららの肩にとまった。
コウが風を操った事により、炎が徐々に二人から離れていく。
* * *
行平は自分の炎の中で氷が砕け散ったのを感じた。
(やったか……!?)
しかし行平はそれ以上を感じとることが出来なかった。
「お前みたいに嫌な事から逃げただけの男には私を殺せぬ」
背後から聞こえてきたつららの声に、行平は驚いて振り向いた。
「何で、お前さっきまで……」
行平がそう言うと、つららはニヤリと笑った。つららの肩にとまっていた鷹が男に変わる。
刹那、行平の目の前からつららの姿が消えた。
(──何!?)
何が起こったのか分からず男をチラと見ると、その男は微笑んだだけだった。
「目の前しか見ておらぬ者にも、私は殺せぬ」
左真横から、つららの声が聞こえる。行平がそちらの方を振り向いた時には、つららが氷の刃を振りかざしていた。
「──ッ!」
かわそうと試みたが、ザシュ、と嫌な音がした。つぅ、と行平の頬に血が伝う。
つららはすぐに態勢を立て直し、第二撃目を仕掛けてきた。行平は炎の盾を作り、それをそのままつららに投げつける。
「──うぐ!」
守りの体勢ではなかったつららは、その攻撃をまともにくらってしまった。
「つらら!?」
「コウっ、来るな!」
怪我を負ったつららのもとに来ようとしたコウをつららはとめた。
「でも!」
行平がつららに刀を振り上げた。
ガキィン。
その刀をつららは氷の剣で受け止める。
「私はっ、大丈夫だから!」
「はっ、よくこの状態で言えるなあ!?」
つららは押されていた。男女の力の差もあるが、行平の刀にまとわりついているのは炎。
つららの氷は溶かされ始めている。
「ナメて、くれるなっ!」
つららの目つきが更に厳しくなったことで、行平はゾクリとした。それは恐らく、嬉しさからきたものであった。
行平の刀の炎が強くなる。
「──ッ」
つららは氷の刀の限界を感じつつあった。
(もう少し、もう少しだけ!)
しかし、そんなつららの願いは届かず、パキン、と音を立てて剣は折れた。行平の刀を憚るものはなくなり、ザシュ、とつららの肩に斬りつけた。
「──あぁあああ、つらら!」
コウは瞬時に鷹に変わり、つららのもとへ飛んで行く。
行平はつららに再び斬りかかる。
「──!!」
つららは氷の盾を作り出すがすぐに壊されてしまった。
(ああ、ダメだ──)
つららはきつく目を瞑る。
僅かに風を感じた。聞こえてきたのは耳のそばを風が通り抜ける音だけ。
「つらら、何諦めてるんスか」
コウが人間の姿に戻り、つららの前に立っていた。
「コウ、」
つららは行平の方を見た。
「うぐぐ……」と身を起こしている途中であった。
「な、何をした!?」
「ん? ああ、ちょっと風で吹き飛ばしただけっスよ」
面白そうに答えたコウに、つららは少し眩暈がした。
「あーあ、肩がぱっくり斬られちゃって……」
そう言ってコウは、つららの肩にそっと手を置いた。
「っ、このくらい大丈夫だ」
「大丈夫じゃないっスよ、さっき魔法の威力落ちてたじゃないっスか!」
「そんなことっ」
「ここは俺に任せてくださいって」
コウは行平の方に向き直った。
△ ▽