『タツ殿、澄信様と史憲公を頼んだ!』

『了解』

そうつらら殿は俺に頼み、コウと名乗った男の手を引っ掴んでどこかへ消えた。

つらら殿に頼まれたからには全霊を賭して守りきらなくてはならない。そう決意し、二人を見ると、史憲様はニヘラと笑い、澄信公は複雑な表情をしていた。

「俺にも戦わしてくれりゃあ良いのに。なあタツ、そう思わねえ?」

「……あなた様が御戦いになるといろいろ壊してしまうでしょうから、なるべくお控え下さい」

「なんだよケチ、別に良いだろ、澄信?」

史憲様にお名前を呼ばれ、ハッと顔をあげた澄信公は、話をきいていなかったのであろう、少し間をおいて

「すまぬ」

ただ一言だけそう呟いた。

つらら殿が心配なのは俺にもよく分かる。しかし今は信じるしかないのだ。

俺はその言葉を口には出来なかった。


 * * *


行平は彩崎城の中にいた。正確にいうと、澄信と史憲たちが会談していた部屋の真上の天井裏にいた。

何故こんなにも容易く城の中に侵入出来たのか多少の疑問を持たないでもなかったが、彼はこれを好機と捉えていた。つららを、殺す絶好の機会。

行平は元彬からの依頼はもうなかったものとして考えていた。

(それにしても騒がしい……)

下の部屋では宮月の藩主の史憲がつららに結婚やら婚約やらと騒いでいた。

(なんだよあの女……俺がここにいるのにあんなに楽しそうな顔しやがって……)

しかしあんなに気を休めているような表情をしているのだ、殺すのなんて易しいものだろう。そう思いながら行平はつららを殺す支度をいそいそと始めた。

支度をし終え、さあ行こうかと思ったとき、史憲の声が聞こえた。

「朔月と同盟組んだんだろう?」

「……もう知っているのか」

それにこたえた澄信の声に、行平は愕然とした。

何故、なぜ。

朔月は今、他三国に休戦を申し出ていると聞いていた。それなのに何故、彩崎と同盟を組む必要があったのか?

澄信と史憲たちの会話は続く。

「……朔月の、行方不明になっていた次期領主が見付かったのだ」

──功風。

功風が、上の奴らに報告したのか。

そこまで考え、当たり前か、と行平は思った。功風は昔とは違うのだ。俺たちの"味方"だった昔とは。

その場に居りにくくなり、そっと立ち上がって屋根裏から離れた。


 * * *


朔月と彩崎が同盟を組んだ。朔月は俺を捕らえようとしている。彩崎はそれを手助けするために同盟を組んだのか? 恐らくそうであろう。

(──だとすれば、俺がここから抜け出し、実平と共に一刻も早く逃げなければ)

そこまで考え、廊下に人がいないのを確認し歩み出す。

「だ、誰だ貴様はっ……!」

その刹那、後ろから声が聞こえ、バッと振り返るが、そこに人の姿はなかった。

「誰だと聞いているのだ、答えよ!」

次はまた背後から声が聞こえてきた。

「早く答えよ」

「まだなのかい?」

「君は誰?」

「早くしてよ」

四方八方から声が聞こえてくる。行平は思いがけず屋根の上に飛び出した。

「ねえ、名前はないのかい?」

「名をなんという」

「答えて」

「答えて」

「教えてよ」

「さあ、早く!」

行平は耳を塞ぎ、屋根の上を駆けていく。

だが声が聞こえなくなることはなく、むしろどんどん音量は上がっていく。

「漸く来たか」

聞き覚えのある声が聞こえ、行平は顔をあげた。

その視線の先には、先程殺そうと思っていた人物──つらら──がいた。






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