「あーそうそう危うく忘れるところだった」

史憲は頭をボリボリと掻きながらそう言った。

「何であろう?」

そんな史憲から視線を外し、澄信は答えた。

「澄信、朔月と同盟組んだんだろう?」

「……もう知っているのか」

澄信は溜め息をつきながら言った。

「当たり前だろう、俺にはタツがいるからな」

「探りをいれていたのか」

「違ェよ。偵察だ、てーさつ」

「大して変わらぬだろう」

そう言って澄信は再び溜め息をつく。

「まあ良い。それがどうかしたのか」

「どうしたもこうしたもあるか。何故今更朔月と同盟を組んだ?」

「……それは貴殿に教えねばならないものか」

「……俺にはお前が戦力を求めるためにあそこと同盟を組んだとは思えない。だからこそ、何故かと訊いている」

史憲は澄信をじっと見つめた。その場に同席していたつららとタツとコウは静かに息を呑んだ。

少し間をおいてから、澄信は話し始めた。


 * * *


「……朔月の、行方不明になっていた次期領主が見付かったのだ」

史憲はただ目を丸くした。

「話を遮るような事を致しますがお許し下さい。行方不明になっていたというのはどういう事か私には解せないのですが──」

「すまぬなつらら、この事については口外する事を止められていたのだ。恐らくタツ殿も知らぬであろう」

澄信が申し訳なさそうにつららを見やる。

「次期領主兄弟二人が行方不明になって七日後、俺と澄信、あと狭の弟が朔月の城に呼ばれたんだ。その二人は領主になる事を恐れて城から抜け出したと当時の領主は言っていた。それを聞いた時に、二人が見つかるまでは戦を仕掛けないで欲しいと言われ、そして同時にその事については誰にも口外出来ないように魔法をかけられた。だから言いたくても言えなかったんだ」

史憲が説明した。

「では何故今その事について仰る事が出来るのです?」

タツが尋ねた。

「恐らく、であるのだか……、その術者が死んだか、それとも術具が壊れたのか……」

「術具、とは? 一級禁止魔法のことでありましょうか?」

つららが澄信に質問した。

術具、というのは自分の魔力を高めるものである、その作り方、形状は様々だが、それら全てが作り出す事が禁止されていた。それは、それらが物の怪から作られているからであった。

「概ねそうであろう。あやつが魔法を使った時に何か丸い物が光り出したのが。つららの魔法と違うから覚えていた」

「左様、でございますか……」

その反応は確実に術具だとつららは思った。

無意識に、つららの手が、首にかけてある勾玉へ伸びた。

触れた瞬間にドクン、と勾玉の鼓動を感じ取ってしまった。まるで生きているかのように伝わってくるそれに、つららはただ呆然とするしかなかった。

(まさか──)

その勾玉の正体が分かってしまったつららは、目の前が真っ暗になった。

そんな様子を、コウが心配そうに見つめていた。

「澄信様、御報告致します! 何者かが城内に侵入した模様!」

突如襖越しに聞こえてきた声に、澄信な表情が引きつるのと同時に、つららが立ち上がった。

「……ありがとう、敵を見つけたら殺さずに捕獲せよ。手荒な事も多少は構わぬ。命を懸けて捕らえよ」

「は」

澄信が告げると、襖の向こうにいた人物は消え去った。

「どういう事でございますか──?」

つららの顔に焦りが浮かんでいる。早く始末しに行きたいのだろうとコウは思った。

「侵入してきたのは恐らく」

そこまで言って、澄信は口を噤んだ。

そしてまた、開く。

「朔月の継承者か、又はそれに準ずる者だ」

つららは目を見開き、頭を垂れた。






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