一方その頃功風は目の前にいる長年探し続けた人をじっと見ていた。

先程の戦いで傷ついていたはずの身体が全く傷一つなくなっているのを見て、満足そうに微笑んだ。

「良かった! ずっと火でしか攻撃してこないからすっかりそれ忘れてしまったのかと思ってましたよ」

功風はそう言うと行平の肩に触れようとして手を伸ばした、けれどその手は行平によって払われてしまい、距離をとられる。

「……ひどいなあ、行平様。せっかく偶然出会えたのに」

「よくそんな口がたたけるな……さっきからずっと見ていたくせにな!」

そう言った瞬間、行平から火を剣状にしたものが投げつけられた。

功風はそれをヒラリと避け、後ろの木が燃え上がる。

「行平様あ、危ないですよ!」

「うるせえッ!」

次々と火の剣が投げられ、功風は苦笑しながらその剣を避けた。

燃え上がる火でだんだん暑くなってくる。

「行平様? こんな手当たり次第の攻撃じゃあ無駄ですよ?」

功風は小さく笑って行平に近付いた。

そしてそれを見た行平は──笑った。

「?」

その表情な功風が首を傾げた。

──その時。

「!!」

功風と行平の居た場所が炎に包まれた。

「な!!」

功風が急いで暗闇を作り出し、自分の身を守るが、あまりの火の強さに全身が守れない。

「……闇の術は確かに強大な力だ。術者の力が強ければ尚更な。俺がお前をただ単純に火で身体を燃やしても闇の力ど全て"無"にかえしちまう、でもな」

行平が功風を睨む。

「人である以上、この広範囲の火を全て無にかえす事なんて出来ねえんだよ!」

火の力が、強まる。

「グァ……!」

熱が功風の身体を痛めつける。

そして、ついに火が功風の身体を包んだ。行平は自分の一部である火の中からそっと抜け出し、つららのもとへと急ぐ。

その時、首につけている黒の勾玉が鈍く光っているのにも気付かずに。


 * * *


過ちは繰り返されようとしているのだ。と忌司は言う。

「……今更何を言うの? 忌司、人間はそういう生き物じゃない」

「ええ……その通りだよ、死誘」

隣で首を傾げる自分のパートナーに微笑んで、忌司は目を伏せた。

「人は学ぶ事を知らない生き物だから、何度も何度も同じ過ちを繰り返す。でも……」

「でも?」

忌司はゆっくりと立ち上がり、前を見る。

「その過ちによる被害はかならず、酷くなっていくんだよ」


 * * *


全てが燃え尽きた後、暗闇の中で一つのカゲが動いていた。

もしこの場に行平が居たら酷く驚いたであろうその人物は、にっこりと微笑む。

例え死んでもその身が灰になるまで燃やすつもりでいた。だから功風の闇の力──すなわち全てのものを"無"にかえす力──を使っても消す事が出来ない広範囲に火をおこした。

それにも関わらず。

「……ひどいなあ行平様」

にっこりと辺り一面の火を消した功風が微笑んだ。

首もとにつけている黒の勾玉が月の光で鈍い光を放っていた。






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