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つららたちは彩崎城への帰路を辿っていた。
扇子に乗り、上空を物凄い速さで横切るつららの背中を見て、コウは何とも言えない、けれどどこかもどかしいようなそんな気持ちになった。
城に着くと、つららはそのままスタスタとどこかへ向かって歩いていく。
「つらら、どこ行くんすか?」
「澄信様の所だ」
「きよ……ああ、国主様の所スね」
「そうだ、態度に気をつけろ」
「はーい」
コウの質問につららは前を向いたまま答えた。
その態度にコウは寂しく思ったが、先程の事があったので仕方ないか、と思った。
* * *
澄信の部屋の前に着くと、つららは跪いた。コウもそれを真似て跪く。
それを確認してから、つららは部屋に向かって言った。
「澄信様、只今戻りました、つららでございます。澄信様にご報告と会って頂きたい者がございますので参りました」
「そうか。入れ」
すぐに部屋の中から返事が戻ってきた。
「失礼致します」
つららはそう言いながら襖を静かに開ける。
「お帰りつらら、怪我はないな?」
その向こうには優しい、しかし厳しい表情をした澄信が居た。
「はい、ありません。今からご報告致しますがこの者は居てもよろしいでしょうか?」
つららはチラリとコウを見ながら澄信に聞く。
「そうだな……。ではまず、そなたについて俺に紹介していただこうか」
澄信はコウを見ながら微笑んだ。
「よし、そなたら部屋へ入れ」
澄信がそう言うと、つららは跪いて居た状態から立ち上がり、澄信の部屋に入っていった。
コウもそれに習い、部屋に入り襖を閉める。そして二人とも正座した。
「では、紹介してもらおうか」
「はっ。コウ、自分でしろ」
つららはコウに自己紹介を促した。
「はーい」
思わずいつもの調子で間延びした返事をしてしまったコウを、つららは睨んだ。
「あ、すいません。えーっと、鷹と人間の物の怪のコウと申しま……す。この度は……つらら様にお仕えさせていただく事になりましたっ、どうぞよろしくー……お願いします」
使い慣れない敬語を辿々しく使いながら(そしてつららに多々睨まれながら)、コウは言った。
その様子を見ていた澄信は、どことなく嬉しそうだった。
* * *
行平との戦いやそれ以前の事を澄信に報告し終えたつららは、澄信から勾玉を受け取った。
つららの手に渡り、キラリと光るそろを見て、コウははっと息を呑んだ。そんなコウに気づいていないのか、つららは澄信にこれ何ですかと呑気に訊いていた。
「よく分からぬのだが……。つい先程、功風殿がいらして、それをつららに渡せと申してきたのだ。功風殿は"全てにおいて勝利できる"と言っていたが、本当のところは何も分からぬ」
「そ、うで御座いますか……」
つららは何か考え込むように押し黙った。
コウは"功風殿"が勾玉をどうやって手に入れたのか考えていた。
* * *
「何故休んでいなかった!」
傷を負い、横になっている清に、元彬の怒鳴り声がとぶ。
「す、みません……」
「行平がつららを暗殺している間に彩崎に攻め込むと申したはずだが? 何故彼奴について行ったのだ!?」
「……」
清は元彬の問いにこたえる事が出来なかった。
「貴様のせいで計画が無駄になってしまったではないか……!」
「……申し訳御座いません……」
元彬は命令に背いた者、失敗した者には容赦ない事を清は知っていた。清はいつも元彬のそばに居り、支えてきたのだ。元彬の厳しさを一番理解していたつもりだった。
「貴様が……清が居なくなったら俺は、……」
段々と小さくなっていく元彬の声を聞いて、清は耳を疑った。
(ま、さか。元彬様は、)
「早く寝て、怪我をさっさと治せ! 計画を一から練り直さねばならぬ」
そう言うと元彬は立ち上がり、部屋から出て行った。
「どうなさったのだろうか、元彬様は……」
そう呟かれた清の声は、部屋の隅で仏頂面して座っている将にしか聞かれる事はなかった。
△ ▽