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雨に身を隠しながら清はつららの後を追っていた。手には暗殺用の網糸を持ち、気付かれないようにつけて行く。
──つららを殺すために。
(もう、あいつは信用ならない)
本来、この暗殺を依頼されていた男、実際は単なる当て馬であるが──それすらも出来ない程の役立たずに、清の目には映っていた。それどころか下手をすれば自分たちに害をなすただの害虫のように思われた。
時間の稼げない当て馬には意味がない。
自分が城に忍び込んでいる間中も澄信を守る魔法は使われていれば、例えつららがそこに居なくても、澄信を殺す事に時間がかかる事は必至である。
(それでは、ダメだ)
何度も何度も計画しては失敗してきた澄信の暗殺、この度は今度こそ成功させなければならない。
──あの人の期待に応えなければ。
(そのためにも)
清は網糸を握り、標的へと視線を向ける。この国の警備は全てあの女が握っている。
今ここで自分があの女を殺せば、一時的にこの国の警備は0となり、自分がかけることのできる呪術でも澄信を殺す事が出来る。そうすれば任務を──。
「達成する事が出来る、?」
「!!」
不意に背後から声がして、清は驚いて振り向いた。
「こんにちは」
(!? なんで……!!)
声の主は先程まで自分の前を歩いていたつららだった。驚きと正体を隠すためにしていた仮面によって、声がでない。
その時、バシャッと水が跳ねる音がした。
「まさかこれは──!」
「そう、先程貴様が追いかけていたのは私が作った水人形だ」
清の心を読んだかのように、つららは冷え冷えとした目でそう言った。
物凄い威圧感を感じ、清はゾッと背筋が凍るのを感じた。が、すぐに気を取り戻し、懐に隠していたクナイを一瞬で、それも至近距離で投げつけた。
本来なら防ぐ事も避ける事も出来ない距離。しかし、
カキンッ
クナイは何か硬い物に当たって音を立て地面に落ちた。
「……普段なら殺されていたかもしれないな。その反応の良さからみて、術でなければ貴様の方が上だろう」
つららは清を見、そして目の前にある氷で出来た盾に触れて小さく笑った。
「神は私の味方だ」
その瞬間、清の周りの雨が鋭い氷となり清を襲う。
「ツッ!!」
持っていた刀で何とか頭上の氷は防いだものの、肩や足に降ってくる氷は防ぐ事が出来ず、全身から血が溢れる。
「頑張るな。……だが無意味だ」
降り続く雨と同じように遅い続ける氷は徐々に清の体力を奪っていく。
そんな清を見ながらつららは言った。
「貴様ではないみたいだな……まあそれも関係ないが」
激しくなる雨と共に向けられる氷が増えていく。
全身の傷が痛む。
「何はともあれ、貴様が私の民を傷付けようとする奴らには間違いない……だから」
つららの目が清を捉えた。
「色々と話してもらおうか」
清の手から、刃が落ちた。
* * *
「つらら様ー!」
「!!」
捕らえようと意識を集中させた時、背後から声が聞こえた。
十五、十六の少年がつららの後ろに立っていた。
「あ、つらら様こんな所に……いい!?」
目の前の光景に驚く少年に、つららはどうすれば良いか迷った。その一瞬の隙をついて清はその場から姿を消した。
「!! コウ、追え!!」
「へ!? あ、了解!!」
それに気付いたつららが隣にいたコウにそう命令したが、最早その辺りに清は居なかった。
「クソッ!!」
──逃げられた。
その事実につららは手を強く握りしめた。
その瞬間に、先程までつららの後ろにいた少年は姿を消した。
* * *
「痛っ……」
痛む体を支えながら清は雨の中を歩いていた。
雨によって奪われる体力と血に、意識が遠くなる。
「清!!」
「将……?」
力強く後ろから体を抱き抱えられた清は、その覚えのある声と温もりに、小さく名前を呟いて、目を閉じた。
△ ▽