あの人は優しい人でした。
第一印象こそ怖かったのですが、それは全て誤解だと知りました。
あの人と私が初めてあったのは一昨年の二月のことです。
その日私は不良グループの男達の一人と予備校の帰りにぶつかってしまったのです。
彼らは私をチラッと見たかと思えばいきなり【治療費】とか言ってお金を請求してきました。
これが小説や漫画なら『なんて古典的だ』と笑えるのですが、実際にその場面に遭遇してしまったら笑い事ではすみません。
男達はみんな体格がよく、少しでも怒らせてしまえば、自分の骨ぐらい簡単に折れてしまえそうでした。
私は恐ろしくなってその場に座り込んでしまいました。
その時でした。あの人が助けてくれたのは。
怒りに任して襲いかかる男達を次々とのし、私に手を差し伸べてくれました。
ですが、私はその時、男達の返り血を浴びたあの人が恐ろしくて、その手を取ることができませんでした。
その場から逃げるように立ち去ってしまった私は、帰ってからそれをすごく後悔しました。
たから、次会ったときにはお礼を言おう、とずっと思っていました。
再開はそれから一週間のことでした。
私はお礼を言おうと不良に会った辺りを彷徨いていたときです。
私は彼を見つけて駆け寄ると、私を認識した彼はものすごい剣幕で怒りました。
『ここが危ないのがわからなかったのか』と。
私は慌ててお礼をいいに来た事を伝えると彼は怪訝そうな顔をしながらも私の礼をを聞いてくれました。
それ以来、私は彼とあそぶようになりました。それはとても楽しかったです。
彼は私に対して紳士的に扱ってくれました。いろんなところに一緒にいきました。
ですが、ある日を境にそれはなくなってしまいました。
彼の兄が、私を痛めつけようとした奴らに殺されてしまったのです。
◆◆◆
精神病院の一室でベットに腰掛けているあの人は、その言葉を涙混じりに聞いていました。
が、私の最後の言葉にはこう言ったのです。
「…雪ちゃん、僕は、弟じゃないよ」
あの人は『あの人の兄』の仕草で、続けて、「ごめんね」と言いました。
気づいてください
(貴方が兄のふりをしてもお兄さんは戻らないの)