私が彼に会ったのは春の始めの頃だった。
 「…こん…にちわ」
 第一印象は酷く気の弱い男の子、というものだった。だが、職業柄そう決めつけては話にならない。私はその男の子を知るために、いろいろ話してみた。
 だが、どの質問も何をしても男の子は態度をかえなかった。
 
 
【ある心理学者の証言】
 
 
 次に彼が来たのはそれから一週間のことだった。
 「おはようございます。先生」
 「え?」
 男の子は先週とは打って変わってハキハキした感じのいい子になっていた。
 「ど…どうしたんだい?急に…」
 驚いた私が訪ねると男の子はバカにしたように小さく笑った。
 「先生、貴方この分野の専門家でしょう?それでもわからないなんてバカですか?」
 「は…あ…」
 「あーあ、コイツも可哀想に。もっと役にたつ先生にあっていたなら【私】がでなくてすんだのに」
 クスクス、と笑い声をあげる男の子に、私はある症状を重ねていた。これは、
 「二重…人格?」
 「正解」
 男の子はクスクスと笑って私をみる。
 「コイツのもう一つの人格です。いじめられっ子で内気なコイツが作り上げたもう一つのね」
 「彼に…そんな症状があったなんて…」
 私は自分の愚かさを悔やみながら目の前の【男の子】をみる。私が気づかなかったことで現れたというのなら、私がすることはたった一つだ。
 「覚悟しろ…」
 「は?」
 「お前をに消して、あの子を救ってやる!絶対にだ!」
 ギロリ、と私が睨みつけると男の子は驚いたように目を見開き、そしてバカにするように小さく笑った。
 「頑張ってくださいね」
 
 
◆◆◆
 
 
 私は彼の両親に話を通して、その翌日も彼の診断を取り付けた。これからは私は彼の中の【アイツ】が消えるまで毎日診断をするつもりだ。
 そう、私が決心していると、ふいに電話がなった。取ると男の子からだった。
 「どうしたんだい?なにかあったかな」
 私はできるだけ優しく彼に話しかけた。だが、彼は電話口で『診断を取り消したい』と言ってきたのだ。
 「なぜ!?そんな急に…」
『もう、心配ないからです』
 彼の声は弾んでいた。嫌な予感がした。
『僕はもう一人の【僕】と入れ替わるからです。これからは僕は苦しむことも悲しむこともなくなります。僕は明日、そんな僕に生まれ変わるんです。だから診察は要りません』
 
 
 
バースデーイブ
(さあ、明日は【私の】誕生日だ!)



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