それは僕が国民学校の帰り道、急に雨が降り出して近所の寺で雨宿りをしていた時だった。
「お前も雨宿りをしているんか?」
一人の男がそう僕に話しかけてきた。


繰り返される、思い出


「そう…です。」
返事を少し戸惑ったのは、その男の格好がこんな時世では手に入ることのない高い和服を着ていたからだ。しかも男の腰には瓢箪があって、その手には煙管。という風情があるといえばあるが正直かなり不自然な姿だった。
けれども男は何も気にせずに話す。
「…夏も終わりじゃのう…お前は夏は好きか?」
「え?あ、まあ嫌いじゃないです」
「そうか…僕は嫌いじゃな」
男はそういうと遠くを見るような眼差しを僕に向けた。僕はその目を見て、思わず「なぜですか」と訪ねていた。
しまった。と思った時にはもう遅く、男は口を開き始めていた。
「…大切な仲間を失ったんじゃ」
「…病気ですか?」
僕の問いに男は首を横に振る。
「病じゃない。戦いじゃ戦によって死んでいった…」
男は悲しそうな顔を一瞬みせた、が、すぐにその表情を引っ込めた。
「…詰まらん話じゃったな」
「あ、いえそんな…」
戦というからには戦争のことなんだろう。今、日本軍は鬼畜米と戦っている真っ最中だ。きっと男の友人はその戦いで死んだのだろう。ならば、悲しむのは間違っている。
「その人たちはお国のために戦ったんですよ。誇りに思わないと」
そう僕が言うと男は目を見開いた。そして苛立ったように手を震わしていた。
(ど。どうしたんだ…?)
何か悪いことを言ってしまったのかと思って、僕は男の顔を覗きこんだ。
−そして男が言った言葉
「僕は…僕らはこんな国を造るために戦ったんじゃない…!!」
その言葉が嫌に脳裏に残った。

◆◆◆

「で、その人どうなっちゃったの?おじいちゃん」
「ああ…気がついたらその場かはいなくなっていたんだよ。だからその人が何者なのかは未だにわからないんだ」
夏休みを利用して帰郷した孫娘にそう話してやると孫は拍子抜けした顔を私に向けた。
「なにそれ、全然戦争に関係ないじゃない」
夏休みの宿題として戦争の話を聞きにきた孫には少々期待はずれだったらしく、まん丸とした頬を膨らませた。
「…おじいちゃんにしてみれば関係ある話なんだけどね」
「なにが−?」
孫はわからないというふうに首を横に振った。私はその孫をみて安堵に似た気持ちを感じた。
(そうだ。この意味が理解できる出来事がもうあってはならない)
私は昔会ったあの男を思い出す、未だに名もなにもわからないが、一つだけわかったがある。
「…させません。今度は」
夏が嫌いといった。その理由が仲間を失ったからといった。こんな国をつくるために戦ったのではないといった。…そんなあの男気持ちが今ならわかる。



残暑の思い出
(同じ思い出なんかにもうつくらせない)



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