「愛しているなんて嘘っぱちだからね」
 そう言って彼はケラケラと笑った。彼は偶にこういう笑いをするところがあるので、自分としてはその笑い方が気に入らないので何度も注意しているのだけれど彼は一度も止めようとはしないのだ。
 「ん?なあにその顔!なんで傷ついた顔してるの?傷つく必要なんてないじゃないか!」
 彼はそう言うと涙で顔を歪めた女に笑顔のまま言った。こういう色恋沙汰は第三者の私が何かを言える義理はないのだが、こんな男に騙された女に酷く気の毒だと思った。
 「この僕と一度でも寝れたんだから、むしろ喜ぶべきでしょう!」
 ひどい言葉だ。女はついに泣き崩れてしまった。
 「もーなんで泣くのさあウザイなあ。とりあえずとっとと僕の視界から消えてよねッ」
 ニコリ、と彼は笑った。女はその言葉に絶望した顔で彼を見上げた後、隠し持っていたナイフを取り出した。
 
 ◆◆◆
 
 女のナイフは床に落ち、そのナイフと同じように女も倒れていた。
 「さすが桜ちゃん!用心深いね!」
 彼は私が持っているスタンガンをみて感心したようにそう言った。なんという男だ。ここは感心するところではあるまい。 「…いつか刺されるような真似をするな、とは思っていたけれど本当に刺されそうになるなんてね。呆れて物も言えないわ」
 「あはは、桜ちゃん酷いなあ。そして、嘘もよくないなあ」
 「嘘?」
 嘘なはずがない。この状況をみたら誰だってそう思うはずだ。
 しかし彼はそんな私にニッコリと微笑み、顔面を指差して、 
 「顔、笑ってるよ」
 と、言った。
 
 
 
 
ねじれた二人
 (歪んだ愛の笑顔)



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