俺の仕事は兄の護衛だ。
俺の生まれた家は世界的にも有名なヤクザ。俺はそこの次男にあたる。
幼い頃から賢く優秀な俺の兄はその反動なのか武道に関しては一般人より多少優れている程度で、この世界では通用しない。だから俺はそんな兄を守るために武道を身につけた。そして自慢ではないが組で一、二を争うほど強くなった。
そして、俺は兄のために人殺しや護衛をするようになった。兄を傷つけない、これが俺の仕事だから。
◆◆◆
「泣くことは悪いことじゃないぞ」
夜中、殺しの仕事を終えた俺に兄は唐突にそういった。俺はというと兄のその言葉に思わず呆けた声をあげてしまっていた。
しかし兄は気にした様子も見せず、俺の頭を撫でた。俺はそんな子供にするようなことは本当はしてほしくなかったが、幼い頃から兄には頭の上がらない俺は、結局「やめてください」とは言い出せず、この状況を甘受した。
兄はよしよし、と言いながら頭を撫でる。撫でて不意に言葉を発した。
「男が、暗殺者が、と人は言うかもしれないが泣くことは悪いことではないのだ。だからせめて私の前では無理に気丈に振る舞うな」
兄はそう言って優しく笑った。兄は冷酷だなんやら巷では言われているらしいが、俺の前ではいつも優しい兄でこのように笑うことが多い。けれども、俺はこのように笑われるときが人を殺すときよりも何よりも苦手だ。
「…そうは言いますけど兄上。俺は気丈に振る舞ってなどおりません」
小声で兄にそう言った。そして俺は、けして兄が聞きたくないであろう言葉を続けた。
「俺も泣くことは悪いこととは思ってはおりません。辛くないから泣かないのです」
俺はそう言うと、兄の顔を上目で覗き見た。すると、泣き出しそうな兄の顔が目に入り、俺は申し訳ない気持ちになり、目を伏せることしかできなかった。
役目を果たせない二人は
((そんな顔をさせたいわけじゃないのに))