「綺麗だねえ」
 兄はそういうと自分の頭上から降っている雪を見上げた。確かに小さな雪が降っている姿は美しい、といっても問題はない、ないのだが。
 「よくこんな状況下でそんなことが言えますね。先程殺した人間の死体で、積もった雪が真っ赤になっているというのに」
 今、自分たちが見上げた空の下には、先程互いに生死をかけた戦いをした男たちの死体が所狭しと並べられているのだ。しかも、その死体から流れる血で積もった雪は赤く染まり始め、今ではほとんど全ての雪が血で染まっている。
 その様な景色の中で美しい、というのはどうだろうか、そう自分は思ったのである。
 しかし、そんな自分の考えとは裏腹に兄はとても不機嫌そうな顔をした。そして不機嫌な声色で自分に向かっていった。
 「君は全くわかってないね。お兄ちゃんは悲しいよ」
 「はあ…」
 「積もった雪なんてどうでもいいんだよ。こんなものはただのゴミさ、そのゴミがどれだけ汚れようとどうでもいいじゃないか」
 兄はそういうと自分の手首を掴んだ。表情は先ほどの不機嫌な顔から笑顔に変わっている。そして、
 「雪は溶けるから美しいんだ。人の思いもまたしかり、積もるほどの思いは破滅しか導かないんだ」
 こいつらのようにね。と兄は言ったのである。
 
 
 
 
 
積もるほどの思いを抱く
 (けれど圧倒的な力の前では)



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