一度だけ、あの人と話したことがある。
 あの人は周りから忌み嫌われていて、あの人自身もそれを理解していて、それを受け入れていた。
 私も正直あの人に近づくのが嫌だった。あの人のことを周りは忌み子とよんでいたから汚れた子なのだと思ったから。
 けれど、あの人は、
 『俺は化け物か』
 悲しそうに言って、そして諦めたように笑った。
 この笑顔をみたとき、私は間違っていたのではないかと思った。あの人は忌み子なのではなくて−



◆◆◆



 今日もあの人の元へ行く。
 だけど今回は嫌々ではなく自分で立候補したものだ。
 あの人に会って、話がしたかったから。
 あの人に会って、色々話がしたかったから。あの悲しそうな姿から笑みを見せて欲しかったから。
 後、もうすこしであの人の所につく、後少しで−
 「汚れた女」



◆◆◆



 忌み子と言われた男は呆然と目の前の血まみれな女を見ていた。
 女はこの間自分に食事を運んできたものだとわかった。そして血まみれの自分を見てそれを殺したのが自分だと言うことを知った。
 知った。というよりは、やった、なのだが、男はその時の記憶を持っていないので知ったという表現の方が正しい。



◆◆◆



 男は体の中に二つの魂を持っている。
 片方は人の魂、もう片方は鬼の魂。
 鬼の魂は普段人の魂の中に隠れているが、人の魂に好意を抱く者や害をなそうとする者が現れるとその者を食らう。
 これが男の忌み子たる所以だった。



◆◆◆



 「あ…あ…」
 人である男は女の亡骸の前に声にならない声をあげた。
 もう動かない、女の亡骸、自分が殺した女の、
 「ああああああああッ!」
 男の泣き声が森に響きわたる。そんな男を鬼だけが笑っていた。




夢をみるな
 (再び二人で話したいなんて)



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