陳腐な言葉に浸食されていく
「好きだよ」
もう聞き飽きた。何度言われたかも分からない。分かるのは、それが彼の本音ではないということだけ。
「ねえ、聞いてる?」
そう言って、彼は俯いていた私の前髪を分けて私の目が彼に見えるようにした。
彼と目が合う。だけど、すぐに逸らした。
コクリ、と頷けば彼はククク、と笑った。
笑ったのだけれども、ちっとも嬉しそうなんかじゃなかった。むしろそれは苦痛に歪んだ時の表情に似ていた。
「俺のこと好き?」
そう訊ねてきた彼の視線は、私が言おうとしている言葉を拒否しているようだった。
だから、敢えて言ってやるのだ。
「うん、好きだよ」
「そう、それは良かった」
彼は笑みを深めた。けれどもそれは、ますます泣きそうな表情になったようにしか見えなかった。
彼は私の前髪に延ばしていた手を離した。私の前髪は再び私の目を隠す。
それはとても都合が良かった。
こんなにも思いが一方的だと、目の前が黒く濁ってしまうのだ。
それでも、一度は通じた思いが再度通じることを祈る。
彼から離れることが出来たなら、私はどんなに幸せになれたことだろう。私から離れたがっている彼を解放することが出来たら、私はどんなに安堵することだろう。
けれども、願ってしまうのだ。私が近くにいれば、また私だけを見てくれるのではないかと(しかし私は、それがもう二度と有り得ないことを知っている)。
「大好き、だよ」
そう小さく呟いた彼の声は、静かに震えていた。それは、何かを予兆するようだった。
私がコクンと頷くと、彼の足元に水滴が落ちた。
「もっと上手に、この気持ちを表現出来たら」
彼の言葉はそこで途切れた。彼の足元にはさらに水滴が落ちていく。
彼は私の前髪を分け、私の目を見た。
「ごめん」
私はすでに、その言葉さえ聞き飽きていた。
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title by my friend N
タイトルは友達から貰ったものです
ギャグにしようかと思ったのてすが、友達はどうやら狂愛が好きらしいのでギャグにはしませんでした
まとまりがなさすぎます、すみません
といいますか、狂愛かどうかすら分からない
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