君のつくる日だまり
彼女は、いつもそっと、諦めたように笑う。
それが、俺との行為に及ぶ前であってもだ。俺は布団の上に横になった彼女の着物の胸元に手を忍ばせながら、いつも何故そんな風に笑うのであろうと思っていた。
「何をお考えでありんしょう」
着物を脱がす手を止めた俺を、彼女はじっと見つめた。俺は彼女の瞳を見た。その答えがもしかすると書いてあるかもしれないなんて、馬鹿げたことを思いついたからだ。
しかし、彼女の瞳には何も書いてはいなかった。そこにあるのは諦めたような光だけだった。
「何でも、ない」
少し考えれば分かることだった。彼女は遊女。自分の気持ちなんて、隠さなければならない。たとえ男に抱かれたくなかったとしても、抱かれなければならないのだ。いわば、感情を殺すことが彼女たちの仕事なのだ。
そう考えると、俺は彼女の着物に掛けた手をこれ以上進めることが出来なかった。ゆっくりと手を離すと、彼女は驚いたように俺を見た。
「何故、手を離しんしたか」
「……なんか、抱く気になれなくて」
俺がそう言うと彼女は目を伏せた。彼女の眉が微かに寄り、俺は何か駄目なことでも言っただろうかと思った。
「わっちに、色気が足りのうざんしょうか」
布団の上で体をのっそりと起こしながら、彼女は俺に訊いた。俺は首を振る。
「では、何故」
そう言いながら俺の首に腕を回してくる彼女の瞳を見る。その瞳は相変わらず諦めた光を灯していたが、その中に僅かな焦りがあった。
「……生まれた時から、ずっとここに居たのか」
その問いに彼女は目を見開いたが、すぐににっこりと笑った。
「いえ、わっちは百姓の子でござりんす」
そう言うと彼女は口を閉ざした。その続きが紡がれることはなかった。
だからなのか、と俺は思った。彼女が諦めたように笑うのは、そういった理由からなのか。全てがそうであるとは言うことは出来ないが、少なからず含まれているのだろうと思った。
何のことだか分からず首を傾げている彼女の頭を撫でる。サラサラとした髪の毛は指に絡まることなく、まるで俺たちの関係を表したかのようだった。
彼女の首もとに顔を埋め、彼女の匂いを吸い込む。それだけでこんなに安心してしまうのは、彼女が百姓からきた遊女だからだろうか。
「やっぱり、やろうか」
そう言いながら押し倒すと、彼女は諦めたように、だが嬉しそうに笑った。
これで良いのだ、俺たちの関係なんて。そう思った俺を彼女は拒むことをしなかった。
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終末恋愛様へ
姫帝より
参加させていただきありがとうございました。
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