雲を掴む




俺は自分が何の為に存在しているのかわからなかった。だから旅に出てみた、というのは安直だったのだろうか。俺は未だにその答えを見つけることが出来ていなかった。

ある村に辿り着いた。とても質素な生活をしている村だった。だが田んぼは青々としており、今年は豊作になりそうだと思った。

「あら、旅人さん?」

田んぼを見つめて、道の真ん中で呆けていると背後からかわいらしい声が聞こえてきた。ゆっくりと振り返ると、そこには声に見合ったかわいらしい女性がいた。

「やっぱり、そうだったのですね。今はお暇ですか?」

暇だと答えると、彼女は嬉しそうに笑った。こういう尋ねかけは、旅人である俺にとって、珍しいことではなかった。

「少し旅の話を聞きたいのだけれど、大丈夫でしょうか?」

頷くと、彼女は再び嬉しそうに笑った。

「旅してて一番印象に残ったことはなんですか?」

なんだろう。そう呟くと彼女は困ったように笑った。

えーと、すっごいお年寄りのおばあちゃんに会ったことかな。250歳くらいだったと思う。すげえ物知りで、俺の知らないことをなんでも教えてくれて。250歳なのになんでこんなに記憶力が良いんだろ、と思った記憶がある。

そう答えると、彼女は目を輝かせた。

「250歳のおばあちゃんですか! 良いなあ、私も会ってみたいです」

君も旅をすれば会えるかもしれないよ。そう言えば、彼女は寂しそうに笑った。

「ほ、他にはないですか? お隣の国はどんな状況か、とか」

そうだなあ。隣の国は賑やかで騒がしかったよ。この国の方が静かで落ち着く。

そう伝えると、彼女は悲しそうに笑った。

「そうなんですか……。まあ、お金持ちですもんね。あ、なんで旅してるんですか?」

唐突だった。俺は表情が引きつったのがわかった。俺の理由は、聞いた人がみんなキザだと笑うから言いたくなかった。

その旨を伝えると、彼女はそうですか、と微笑んだ。

「実は私も……旅をしたいんです。ご覧の通り貧しい村ですから、毎日農作業ばかりで。自分が食べるだけならまだしも、それを土地主様に献上とかするのが堪えられなくて。なんで私はここにいるんだろ、土地主様に作物を献上するためだけにここにいるのだろうか。そう考えると、自分の存在意義がわからなくなってしまって……だから、私は旅がしたいんです」

彼女の顔は凛々しかった。俺と同じ理由だった。それを胸をはっていえる彼女に畏敬の念を抱いた。

すごいよ。そう返事をすると、彼女は

「まだ、実行にすら起こしてないですけどね」

と照れたように笑った。



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