振り向いて。見つめて。
俺の前の席に座る彼女の髪の毛が揺れる。
教室には先生が板書する音と、生徒それをノートに書き写す音だけが響いていた。それを感じ取りながら、シャーペンを動かす。
俺の前の席に座る彼女が、顔をあげて黒板を見る度に髪の毛がゆらゆらと揺れた。1つにまとめてある髪の毛は、窓から入り込んできた光を反射している。
綺麗だ、と素直に思う事が出来た。
彼女が俺の前の席になってから早くも1ヶ月が経った。この学校では、定期テストの度に席替えをするから、予定ではまだ席替えはしないハズだ。
そう考えて、安心する自分が居る事に気がついたのは、つい最近だった。
それに気付いても大した驚きはなかった。ただ、俺にもとうとうその気持ちを知る時が着たか、ぐらいにしか思わなかった。
恋をすると動悸や眩暈がどうのこうの言っている奴がたまにいるが、その気持ちが全く分からないわけではなかった。
だが俺の場合は動悸や眩暈ではなく、彼女を見るといつも息苦しくなるのだ。例えば、心がギュッと締め付けられるような。
彼女の隣には俺の友達が居た。
2人が並んで居るのを見てしまった時は何と表現したらいいのか分からなくなるほど自分は嫌なやつになっていた。
自分の中の独占欲に気付くと、途端に自分が嫌いになった。そして同時に、いつも胸の締め付けを取る為の方法を思い巡らしていた。
人の気配を感じ、視線をあげた。そこには心配そうな顔をした先生がいた。
「どうしたの、大丈夫? 難しい顔してたけど、分からないとこでもある?」
俺を覗き込む先生の髪の毛も、ゆらゆら揺れていた。
だが綺麗さは比べ物にならなかった。
「あ、いえ。少し考え事をしてて……」
「あら、そう? 何かあったら言ってね、いつでも聞くから」
でもちゃんとノートはとりましょうね。先生はそう言うと教卓へ戻って行った。
ノートをとるためにシャーペンをせかせかと動かしていると、彼女が俺の方を向いた気配がした。
それに気付かないフリをして、ノートに書き込み続ける。
「……ねえ」
「ん……?」
いかにも今気付きましたよ、という雰囲気を出して顔をあげた。
「もうそこ消されたからさ、後でノート見したげる」
「あ……ありがと」
何で俺がまだそこを写してない事に気がついたのか、とか。何で急にそんな優しくするの、とか。気になる事は沢山あるけど、ノートが見れるならそれだけを気にすれば良いのかもしれない。
そう思った俺はきっと、どす黒い独占欲の塊であるに違いない。
振り向いて。見つめて。
そして俺から視線を外さないで。
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title By 揺らぎ様
友達にお題もらって書いたもの。
お題は"前後の席で惹かれ合う男女"だったのですが、何かよく分からないものになってしまいました....
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