夢を見る


「ここんとこようおいでなさっとりんすが、お金の方は大丈夫にござんすか」

彼女は小さく首を傾げて、俺を見た。

「どうだろうなあ。大丈夫なんじゃねえの。どうせ親父も兄貴も俺を相手にしねえし」

それを聞いて、彼女はますます首を傾げた。

「ならば、尚更。ぬしは、此処がどこだか分かってのうざんしょ?」

「知ってるさ、ここがものすごくお金がかかるところだって。あと……」

彼女をグイと胸元に引っ張り、そのまま押し倒す。

「自分の傷を癒やしてくれる所だってことも、知ってる」

彼女の耳元でそう囁く。彼女は少し驚いたようで、体が固まっていた。

「……ここでなら、その傷が癒やされなんしか」

彼女はふっと、息を吐き出した。

「ああ。傷の舐め合いだよ」

「でも、ここを出んしたら、また傷口が開きざんしょう」

「だから、またここに来るんだ」

俺は、そっと彼女の着物の中に手を入れる。彼女はそれを拒まない。

「ふふ、ぬしは頭が悪いざんすなあ。そしたら傷は更に深くなりんしょうに」

「あんたも、だろ。こんなとこに居たら傷だらけになる」

「わっちは、どうせ出ることを許されることののう身にござりんすから」

彼女の声は若干郷愁じみていた。その声で、俺は家族を思い出した。

俺は商売で成功した家の三男で、上二人は商売の才能があったが俺にはさっぱりなかった。そんなわけだから仕事を任されるわけでもなく、むしろ邪魔になるから出て行けと言われる始末だ。仕方なく街を彷徨いて、見つけた場所がここだった。

「わっちは、一人。ぬしも、一人。似た者同士でござりんすなあ」

ははは、と笑った彼女の声は乾いていた。

「だから、傷を舐め合うんだろう」

彼女の唇を塞ぐ。

「わっちも、ぬしも、馬鹿らしうて、笑いが、止まりんせん……」

彼女は目を手で隠す。

ああ、きっと。きっと、俺は彼女の傷なんて舐めることなど出来ない。俺は、舐めてもらえるのに。

そう思うと、本当に馬鹿馬鹿しくなって、笑いがこみ上げてくる。

「はは、本当に、馬鹿らしい。でも、俺は……」

これ以外の方法なんて知らないんだ。

彼女のように、手で目を覆い隠す。

何も見えず、彼女の体温だけが伝わってくる。

ああ、これだけなのにこんなに安心出来るなんて。





咲くやこの色様へ提出
姫帝より

なんかやたら暗い話ですみません
遊女設定好きですみません



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