抱き締めることなんて出来ない
ついに、来てしまった。俺のところにも。胸がドキドキしている。封筒を開ける手が震える。
そばでは、父母が俺を見守っていた。
特に母は、その封筒を恨めしそうにに見ていた。
* * *
簡素な夕飯を食べた後、幼なじみが近くの工場で働いた、そのままの格好で俺の家に駆け込んできた。
「いっちゃん! 赤紙が来たって本当ですか!?」
はあはあと息を切らしているソイツをチラリと見る。ソイツは眉を八の字に曲げていた。
「ああ、本当だよ。この通りさ」
シャツの胸のポケットから取り出されたその紙を、彼女はバッと取り上げた。それはまるで、破こうとしているかのようだった。
「いっちゃん……。良かったですね」
ニコリ、と笑った顔がやけに胸に響く。
「……ああ、やっとお国のために死ねるんだ。こんな嬉しいことはない」
「そう、ですね。……出立は、いつですか?」
「明後日だ」
「じゃ、じゃあ! 私、明日仕事休みます! 休んで、いっちゃんと居ます!」
ソイツの言葉に、俺の心は幾分か明るくなった。
「お前は、自分が出来ることでお国に貢献しろよ。明日も休むな」
「でも……」
「トミ!」
ソイツの名前を呼んで強調すると、ソイツは──トミは、うなだれた。
そして、顔をあげた。笑顔だった。
「じゃあ、また明日、終わったら来ますね!」
そう言って、家から出て行こうとする。
「トミ」
俺はトミの横に立った。
「ありがとう」
トミの目から、はらはらと涙が流れた。
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重たい話ですみません
イメージでは第二次世界大戦です
分かりにくいですね(-_-;
架空の人物です
△ ▽