夕暮れの街


触れる。彼の手が、私の頬に触れる。

決して泣いたわけではないのに、彼の手が私の頬を、涙が這う跡を追うように触れる。そして唇に行き着いた時、彼はニッコリと笑った。

「可愛いよ」

言われて嬉しい言葉であるハズなのに、狂気を孕んだその声のせいで背筋がゾクリと冷えた。

彼の手は私の頬から離れない。それを拒むことの出来ない、声を発せない自分がもどかしい。

「いつまでも、傍にいて……」

そう切ない声で言いながら、彼は決して私を抱き締めはしない。



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