腕の中の君


「ねえ、なんでいつも私と一緒にいるの」

いつもと同じよう、何気ないことを訊くように彼女は俺に訊いて来た。俺は雑誌から目を離さず、彼女の声に耳を傾ける。

「私と一緒にいて楽しいの。他の人と話してるときの方が楽しそうなんだけど」

俺は読んでいた雑誌を置き、彼女の方を見た。そして、口を開く。

「俺は、お前といるときが一番安心すんだけど。一緒にいることが、嬉しいし」

こんなクサい言葉を言うときは、いつも緊張してしまう。だけど、彼女はきっと知らない。俺が、もっと彼女に近づきたがってることを。

「そんなの、私には分かんないよ。今だって、私の部屋にいるのに雑誌ばっかり見てるし」

彼女の眉は八の字を描いていた。俺は、彼女を求めたら彼女はきっと壊れてしまうだろうと思っていた。(そして、そう思っていたことを彼女は知らないだろう。)

だけど、彼女がもし俺を求めてくれているのだとしたら。俺は、彼女を傷つけているのではないか。

「……ごめん」

そう言って、俺は彼女をそっと抱き込む。彼女が壊れてしまわぬよう、酷くそっと抱きしめた。

彼女は絶対気づいてない。俺がずっとこうしたかったと思っていたことを。そして、もっともっと近づきたいと思っていることを。

今だって、手に汗握るほど緊張しているけど。俺の腕の中にいる彼女を見ると、そんなことどうでも良くなってしまう。

俺は、酷い。彼女が壊れてしまうほど求めてる。



腕の中の君



こんなに彼女を壊したい衝動に駆られている俺から、いつかきっと彼女は離れてしまう。



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