響いた音は乾きすぎて




私は恋をするには幼すぎて、まだまだ知らない事が多すぎた。

好きになったらこういう気持ちになるのも知らなかったし、自分がこんなにも臆病な人間だって事も知らなかった。

だが私にはそれを理由に逃げる権利がなかった。

ただそれだけだったのだ。







部活帰りに忘れ物を教室に取りに行こうとすると、友達がついて来た。

辺りはもう暗いし、私の部活がこれまた結構遅くまでやる部活で(総下校のチャイムが鳴ったあともやるような、気合いの入ってる部活なのだ)、廊下の電気とか教室付近は消されてるだろうから、そのままついて来てもらう事にした。

「夜の学校ってさ、なんか昼間と違く見えてドキドキする」

「分かる! なんか出そうだよね」

「それはないって。てかさ、最近どうなのさ」

「え、な、何の事かなー」

彼女の言葉に思わず目を泳がしてしまうと、彼女にちょっと睨まれた。

「しらばっくれるんじゃないよ。最近あんたの好きな人と何か発展あったかどーか訊いてんですけど」

「あー……、えーっとあーっと」

進展がないと言ったら彼女に説教されてしまうのは目に見えているので、それを免れる事が出来そうな言葉を探すが出てこない。自分の語彙の持ち合わせの無さを呪ってしまった。

そんな私を見て、彼女はあからさまにはあー、と溜め息をついた。

「まあ、あんたの事だし進展がなかったのは想像出来るよ」

「……ごめんよ」

「なんで謝るのさ。でもまあいろんな人に告りまくるよりは良いよ」

「……うん」

どちらにしろあまりよくはないのだが、気持ちを他人に伝える事が上手に出来ない私を励まそうとしてくれたの伝わって来たので、なんだか嬉しかった。

そうこうしているうちに教室についた。

暗いし、道のり長かったなあ、なんて思いながらガラガラと扉を開ける。

彼女が息を呑む音が聞こえた。

なんだろう、と思い中を見ると、何があったのかは分からないが、泣いている女子を優しく抱き締めている男子が居た。

バッチリと2人と目があったが、こんな所まで来たのに忘れ物を取らないワケにもいかない。

仕方なく教室の中に入り、2人が居るすぐ傍にある私の机まで行って鞄に入れるのを忘れていたペンケースを机から取り出し、なるべく2人を見ないようにしながら彼女の待つ扉付近に戻る。

私が戻ったのを一瞥したあと、彼女は何を思ったのか、いきなり「失礼しましたあ」と大声で言い、ガラッピッシャン! と勢いよく扉を閉めた。

「よし、戻ろっか」

「う、うん」

私はおずおずと彼女について行く事しか出来なかった。

教室から少し離れた所まで来ると、彼女はまた口を開いた。

「さっきのはね、あたし達の雰囲気を気まずくしたお礼なのさ」

「……そうなんだ」

「教室であんな事しちゃってさあ、見回りの先生にこっぴどく叱られちゃえば良いのにね」

「……うん」

そう答えながら、それはちょっと困るかも、と思いながら私はとぼとぼと来た廊下を戻っていた。

「けど別に付き合ってるって決まったワケじゃないし」

そう言って彼女は、あの女の方泣いてたしね。と付け加えた。

「……うん」

あの女の子は、告ったのだろうか。あの人に。そして、振られたの、か──?

そう思うと途端に怖くなってくる。あの女の子を抱き締めていた男子は、私の好きな人だった。

「あんたは、今からでも自分の動きたいように動いて、なんていうか、当たって砕ければ良いよ」

まああんたなら砕けるどころか成就させそうだけどさ。そう言って私を励ましてくれる彼女に、私は引きつった笑顔しか返せない。

正直、もうダメだと思ったがそれを言葉にする術を私は持っていなかった。







title by 揺らぎ



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