A C T . 4
- 失 わ れ た 光 ‐
教室に着けば、ユエとライラにこの事を早く聞いて欲しくて…登校中でも浮き足立っていたのが自分でも分かる。
「おはようございます」
ところが、クラスの扉を明けてすぐ挨拶をしたはずが……この日に限っては何も返事が無かった。
いつもは誰からともなく“おはよう”と返ってくるはずなのに…
それどころか教室内がやけに静まりかえっていて…こちらを見て直ぐに目を逸らす子やそのまま教室を出ていってしまう子までいた。
「おはようございます。あの、どうかしましたか?」
自分の勘違いだと、たまたま聞こえていなかっただけだと思いたくて近くにいた子に声を掛けた。
でもそれは、間違いでは無い事に嫌でも気付かされてしまう……
「………あっちに行こう?」
「うん。」
何も言えずその場に立ち尽くしていると、別グループの子達の会話が聞こえた。
それも私に聞こえるくらいの大きな声……
「ほら、メノウさんよ……」
「怪我を治しちゃうなんて気持ち悪いよね……」
キモチワルイ……?
今、なんて………私が気持ち悪い…?
そうだ、ライラ。見たところ、ユエは今日は体調が悪いのかまだ学校には来ていないのだけれど…よく休み時間にも医学書を読んでいるライラなら分かってくれるはず…
「おはようございます、ライラ!
昨日のことなのですが実は…」
「―――こっちに来ないでくれる?もうあなたとは話したくないの」
いつも読んでいる本をパタリと閉じて紡がれた言葉に、その冷ややかな眼差しに背筋が凍ったように絶句してしまう。
昨日までの楽しかった日々が嘘のようで……頭を大きな鐘で突かれたような衝撃に襲われて次の言葉が出てこない……
じわじわと鼻の奥がツーンと熱くて痛くて涙が込み上げて来た…
これで泣くのは卑怯なのはわかっている、こんな人前で涙を流すのは嫌だったから必死に唇を噛み締める。
そうする事で堪えられるはずだった…。
けれど、一度気付いてしまうと様々な感情が波のように一気に押し寄せてくるとその場にいる事を許されていない様な気さえして…私は咄嗟に教室を飛び出していた。
使われていない教室に飛び込むと、誰も入ってこられないように急いで鍵を閉めた。
そのまま扉に寄りかかったまま力無く入り口に座り込むと、誰も居ない安心感から今まで溜め込んで来た温かいものが頬を伝って行くのがわかる。
でも冷静になって考えてみれば、こうなることは分かっていたはずなのに…
だって治癒能力は使える人の方が少ない希少な魔法なんですもの……認知度が低いが故にそれを気持ち悪いと、怖いと思う人もいるだろう。
それなのにあんなに浮かれていた朝の自分が腹立たしくて仕方がない…。
そこで思い出されたのは朝のお母様のお言葉……
『困ったことがあったらいつでも言ってね…?お父さんとお母さんはいつだってあなたの味方なのよ。』
もしかしたらお母様も同じような経験を…?
だからあのような言葉を……?
色々な気持ちが錯綜するけどそれを整理する程の余裕を、今の私は持ち合わせてはいない。
この日、わたしは生まれて初めて授業をさぼってしまった…
そしてここが地獄のはじまりでした…